
2021年02月15日
こんにちは。Winomy編集部のNORIZOです。
みなさんは、「ビオディナミ農法」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?これは、ドイツの人智学者ルドルフ・シュタイナーによって提唱された、別名有機農法・自然農法の一種で、循環型農業のことです。
本日はフランス大使館公邸で開かれた、ビオディナミ農法だけのワイン生産者の団体の試飲会「ルネッサンス・デ・アペラシオン」に行ってきました。そしてなんと、その会場で「ルネッサンス・デ・アペラシオン」の創設者のニコラ・ジョリー氏に突撃インタビューを敢行! その模様をお届けいたします。
「ニコラ・ジョリー」は、現オーナーであるニコラ・ジョリー氏が一代で名声を築き上げた、ロワールを代表するワイナリーのひとつ。ニコラ氏は、かつてコロンビア大学で経営学修士号(MBA)を取得、その後ウォールストリートで働いていたというビジネスマンでした。
モントリオールの金融省に1年半、更にモルガンスタンレーに5年間勤務し、ビジネスの世界で順調に出世していたにもかかわらず、1976年に自らの仕事を辞めてフランスへ帰国。母が運営していたワイナリーを継ぎ、ワイン造りをスタートさせました。
当初は他の生産者同様、ワインコンサルタントのアドバイスを受けて除草剤や化学肥料を使用していましたが、次第に畑に昆虫がいなくなり、土壌も明らかに変質しているのに気づいた彼は、1980年代初頭にルドルフ・シュタイナー氏が提唱するバイオダイナミック(ビオディナミ)農法を取り入れたブドウ栽培を実践し始めます。
ビオディナミとは、別名生体力学農法とも言われ、化学的に合成された肥料・農薬・除草剤を一切使わない栽培に加え、天体の運行に合わせて自然物質を使った特別な調剤を用いて自然の潜在能力を引き出す農法のこと。1980年に部分的に、さらに1984年からは全ての畑に導入を開始しました。
この農法を取り入れた当初は、近隣の栽培家から冷やかしや非難を受けることもしばしばでしたが、畑が本来の力を取り戻し、豊かでエレガントなワインが出来るようになると、関心を示す生産者が続々と現れ、ブドウ栽培におけるビオディナミの先駆者的な存在になりました。
かの有名なブルゴーニュの偉大なラルー・ビーズ・ルロワ女史でさえ、彼に影響を受けていると言われるほど。今でこそブルゴーニュ、ボルドーの一流生産者にも導入されるビオディナミですが、フランスで初めてビオディナミをワイン造りに取り入れ成功させたのはニコラ・ジョリー氏その人なのです。
(出典:エノテカオンラインより)
ニコラ氏との感動のご対面もそこそこに、早速インタビューを開始!
私は幸運にも、ロマネコンティのような、自身のアペラシオンを得ることができました。しかし、その道のりは決して平坦ではありませんでした。それは、私が他の人とは違う、ブドウへのアプローチの哲学を持っていたからです。
私はビオディナミ農法を1980年に始めました。それは後にブルゴーニュのフランソワ・ブーシェらに支持される結果となり、私の考えは間違いではなかったんだ、と今では思います。
熱く語るニコラ・ジョリー氏
最初は正直、ビオディナミ農法についてどうしたらよいかあまり分かっていませんでした。ただただ、ルドルフ・シュタイナーが提唱する情報に従うのみでした。
我々は春から秋にかけて、太陽から、月から、植物からのエネルギーを感じることができます。特に春は、芽が出て、葉がつき、花が咲きます。ブドウも同様です。毎年、たった1ヘクタールの中にも、そのエネルギーを感じることができるはずです。これがビオディナミ農法を理解するのに非常に需要な要素となります。
ビオディナミ農法を通じて、我々は宇宙全体のシステムとつながることができます。それによって、我々はブドウと向き合い、会話することができるようになるのです。人工的な農業手法を排除することで、農業そのもののを理解でき、自然界そのものの味わいに到達することができるのです。
しかし昨今、自然派ワイン(Nature Wine)と言われるものは非常に多く存在しますが、私からするとそれらは自然ではない。私が添加物を使用し、人工的な風味をつけたとしても、法規制の曖昧さのために、それらは”自然”と呼ぶことができるワインに仕上がってしまう。
もしあなたが本当の”自然派ワイン”を求めるのであれば、それは法的にビオディナミ農法で作られたことを証明できるものでなくてはならない。自然というものを、より深く理解するためには、その土地の気候、土、そこで育つ動物たちへの理解に回帰すべきです。
目には見えないかもしれませんが、あなたが住んでいる土地の生態系や地球との繋がりを感じてください。ビオディナミ農法は、単なる目に見えないシステムとの接点にすぎません。それは、我々の健康に寄与し、ワインそのものの味わいに貢献してくれるでしょう。そして、そこで使用される調合剤は、宇宙のそれぞれの惑星系システムと、太陽に繋がるはずです。
日本はワインづくりは、とても可能性を秘めていると思います。日本には日本独自の土地のシステムがあるはずです。その土地のブドウには、彼らが求めているベストな状態があるはずです。日本のワインメーカーの皆様には、ぜひそれを表現してくれるものと期待しています。
もし日本の皆様が、ワインに対する感度をより良くしたいと思われるのであれば、ワインに対する全ての知識を忘れてください!
グラスを手に取り、ワインを口に含み、それが血管に流れ込んだ瞬間に、エモーション、パッション、ワインが奏でる唄を感じてください。鼻から来る香りで、いろいろ情報分析しないでください。それはワインを理解するのに間違った情報を与えてしまいます。
それともうひとつお伝えしたい。あなたがビオディナミ農法のワインを開けたら、冷蔵庫には入れずに、1週間寝かせてみてください。ワインは再熟成して、より美味しくなるはずです。
確かに、抜栓して二日後には酸化によって変化します。しかしその後、ビオディナミ農法のワインは生命力を取り戻し、酸化と戦い始めます。だまされたと思って、新しいものとブラインドで比べてみてください。それはとても興味深い結果となるはずです。
本日、ニコラ氏とお話して、さらに各生産者のワインを試飲するまでは、正直なところ「ビオディナミってどうよ?」って思っていました。(大反省)なぜなら、これまで飲んできたビオディナミが、「ぬるくてぼんやり」という印象しかなかったからです。
しかし、今回ニコラ氏の熱い思い、そして、それに賛同して日々研鑽を重ねる各生産者のワインには、もはや感動を超えて、尊敬さえ覚えた体験でした。しかも、会場をグルグル周り、ほぼワイン1本近く飲んだにも関わらず、私の胃腸はなぜか優しい感じで、帰宅後に楽勝でご飯が食べられるコンディションなのでした。
いきなりの突撃インタビューにも関わらず、終始笑顔で、でも真剣に熱く語っていただいたニコラ・ジョリー氏。 国を問わず、生産者の皆様はいつも熱い!
私は飲んで伝える側として、その想いをしっかりと受け止めワインと向き合っていかねば、と改めて思うワインな一日でした!
Winomy編集部ライター
NORIZO
日本ソムリエ協会認定 ワインエキスパート。ワイン検定ブロンズ&シルバークラス認定講師。FLAネットワーク協会認定 食生活アドバイザー。
世界中のワインを味わってきた知見を生かし、「ワインBYOコーディネーター」としてワインと食のマリアージュ、ペアリングにフォーカスしたコラムを執筆。
また、英語やフランス語など多言語を駆使し、世界のワインピープルとの対談記事もお届けします。
好きなワインは「ブルゴーニュのジュヴレ・シャンベルタン」と「ボルドーはサンテミリオンのシャトー・カノン」の二択!