2020年01月22日(水)

ものがたりワイン〜舌平目のマリアージュにご用心!?〜

こんにちは、吉田すだちです!

小説、映画、ドラマ…ワインはしばしば、さまざまな「ものがたり」に花をそえ、登場人物の心をゆさぶり、読者・視聴者を次なる展開へとみちびく、重要な役割をにないます。

というわけで、冒頭のイラストをご覧ください。これ、とある映画のワンシーンをイメージしたものなんです。なんだかわかりますか?

正解は、1963年公開の「007 ロシアより愛をこめて」。007ことジェームズ・ボンドとボンドガールのタチアナ、ロシア人の殺し屋が3人で、オリエント急行の食堂車で食事をするシーン。向かって左側に、ボンドとタチアナ、右側に殺し屋がすわっています。殺し屋の任務は、ボンドを暗殺すること。このシーンでは、殺し屋がボンドの味方になりすましています。

食べているのは3人とも同じ、舌平目のグリル。テーブルの上にはワインボトルが2本と、グラスが3脚…。

カンのいい方なら、もうお気づきですね。そう、全員が舌平目をオーダーしたにもかかわらず、1脚のグラスには赤ワインが注がれているのです…!

007シリーズといえば、登場するワインやカクテルが見どころのひとつ!なのですが、「ロシアより愛をこめて」の食堂車シーンは、ワイン好きとして特に興奮してしまうシーンだと思います。

ポイントは3つ!

1. マリアージュに無頓着な、お茶目な殺し屋

舌平目に赤ワインをあわせるという”やらかし”をしてしまったのは、ボンドの対面にすわる殺し屋。飲んでいるのは、イタリアの有名ワイン「キャンティ」。

ここでぜひ味わっていただきたいのは、殺し屋の”キャンティ愛”です。このシーンの会話はこう…。

殺し屋「Make mine Chianti.(わたしはキャンティをもらおう)」

ウェイター「White Chianti, monsieur?(白のキャンティをお持ちしましょうか?)」

殺し屋「No, no. The red kind.(いや、赤をたのむ)」

この会話、「殺し屋はワインのことをまったくわかっていない粗雑なやつ!」という解釈が一般的です。なぜなら、のちに正体をあらわした殺し屋に対し、ボンドはこうつぶやくからです。

ボンド「Red wine with fish… That should have told me something.(魚料理に赤ワイン…気づくべきだった)」

魚料理に赤ワインをなんて、イギリス人のボンドからしたらありえない。そんなことをするのは、マリアージュを理解していない、ロシアの殺し屋くらいだ!というわけです。

でもね、わたしは思うのです…「このひと実は、ただ赤のキャンティが大好きなだけなのでは…?」と。

殺し屋はメニューを決めるとき、ボンドのオーダーにのっかって「わたしもそれ(舌平目)で」と適当に流します。しかし、ワインをオーダーするときには食い気味に「わたしはキャンティだ!」と注文します。また、上の会話の「赤をたのむ」というセリフも、「おいおい、たのむよ、赤に決まってるだろ」というニュアンスが満載です。

考えてみれば、ウェイターがわざわざ白をすすめているのに、それを否定してまで赤をオーダーしているわけで、そこには、マリアージュなんて知ったことか!オレは赤のキャンティを愛しているんだ!という、殺し屋の熱いキモチがひそんでいる気がしてならないのです。

この解釈で改めて映画をみると、悪役であるはずの殺し屋に、不思議と愛着がわいてきます。彼もまた、彼なりに愛情をもってワインをたしなんでいたのではないか…と。

2. クラシックでキュートなボトル「フィアスコ」

さて、そんな殺し屋が飲んでいるのは、「フィアスコ」と呼ばれる特徴的なボトルに入ったキャンティです。

映像ではすごくわかりにくいのですが、よ〜く目を凝らしてみると、テーブルのおくにどっしり陣どったフィアスコ・ボトルを確認することができます。

フィアスコは、瓶の下半分がワラで包まれた、フラスコのような形のワインボトル。たまに、ワインバーで飾ってあるのを見かけますよね。しかし、キャンティをオーダーした時にフィアスコが出てくることは、めったにありません。

なんでも、フィアスコは非常にかさばるので、流通に不向き。世界がイタリアワインブームにわくのと反比例して、フィアスコの生産量はガクッと下がってしまったのだそうです。

また、1980年代以降、本格的にワインの高級志向化の波がおしよせます。その結果、生産者たちはキャンティのイメージアップをはかるために、ボテっとしたフィアスコをスリムなボトルに置きかえていったのだとか。

はなしを007にもどします。「ロシアより愛をこめて」が公開されたのは1963年。つまり、まだフィアスコの生産が主流な時代です。わたしたちにはめずらしく感じられるフィアスコも、ボンドやタチアナ、殺し屋の目には、当たり前の光景としてうつっていたんですね。

そんなことを考えながら画面の奥をながめると、ちょっぴりワインの歴史を垣間見ることができて、感慨深いです。

3. ボンドが味わうブラン・ド・ブラン

3つ目のポイントは、ボンドがオーダーするシャンパーニュ。セリフはこう。

ボンド「I’ll have a bottle of Blanc de Blancs.(ブラン・ド・ブランのボトルをいただこうか)」

ブラン・ド・ブランとは、シャルドネ100%で造られるシャンパーニュのこと。さすがボンド、ちゃんと舌平目とのマリアージュを考えています。

ちなみに、この部分の日本語字幕は「それ(舌平目)に白ワインを」となっています。「白ワインじゃなくて、ブラン・ド・ブランでしょーに!」というツッコミをいれたくなるのは、ワイン好きの宿命でしょうか。

閑話休題、「ロシアより愛をこめて」でボンドにサーブされるシャンパーニュは「Taittinger(テタンジェ)」。日本でもおなじみの、人気シャンパーニュです。

しかし、ジェームズ・ボンドと言えば、同じシャンパーニュでも「Dom Pérignon(ドン・ペリニヨン)」や「Bollinger(ボランジェ)」のイメージの方が色濃いのではないでしょうか。

実は、007シリーズの中で、ボンドがテタンジェを口にするのは、シリーズ2作品目の「ロシアより愛をこめて」だけ…!つまりこのシーン、とってもレアなんです。

007シリーズのシャンパーニュ登場回数をかぞえてみると、ドンペリが6回、ボランジェが13回、テタンジェが1回。どうですか、「ロシアより愛をこめて」の食堂車シーンが、お宝映像にみえてきませんか…!?

このことを踏まえると、同じシーンを何度くりかえしみても、テタンジェ登場の瞬間に毎回こころの中で「キターーー!」と思ってしまうのでした。

最後に…

007は、特に「お酒が重要なファクターをになう作品」といっても過言ではありません。そしてほとんどの作品において、ワインがクローズアップされています。ワイン好きにとって、これほど楽しめるエンターテイメントはないですね!

逆に、007をみてから当該ワインを手に取ると、ものがたりの名シーンを思い描きながらその味わいを堪能することができます。こういうタイアップなら、どんどんやってほしい。その分、ワインの楽しみ方がふえることになるからね。

みなさんも、「007 ロシアより愛をこめて」をみて、キャンティやテタンジェに舌鼓をうってみてはいかがでしょうか。

 


吉田すだち ワインを愛するイラストレーター

都内在住の、ワインを愛するイラストレーター。日本ソムリエ協会認定 ワインエキスパート。ワインが主役のイラストをSNSで発信中!趣味は都内の美味しいワイン&料理の探索(オススメワイン、レストラン情報募集中)。2匹の愛する猫たちに囲まれながら、猫アレルギーが発覚!?鼻づまりと格闘しつつ、美味しいワインに舌鼓を打つ毎日をおくっている。
【HP】https://yoshidasudachi.com/
【instagram】https://www.instagram.com/yoshidasudachi/

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