
2021年11月10日
2021年08月25日
ワインショップでつい目がいってしまうコーナーがあります。「自然派ワインコーナー」です。「自然派」とか「オーガニック」とか、そういう言葉に弱くてつい手にとってしまうのは私だけではないはず……! 先日もちょっと気になる自然派ワインをゲットしました。
「ビュル・ド・ヴィ」と読みます。フランス、アルザス地方のスパークリングワインです。スパークリングワインの中でも「ペットナット」と呼ばれる種類。ペットナットは略語で、正式には「Pétillant(ペティアン=弱発泡の) Naturel( ナチュレル=自然の)」……つまり弱発泡の自然派ワインです。
野生酵母による発酵を確認したのち、補糖や濾過、清澄などを行わず、そのまんま速やかに瓶詰する瓶内発酵スタイル。スッキリクールな酸味が特徴的で、よく冷やしていただくと夏のほてった体をひんやり冷ましてくれます。タルタルソースをたっぷりつけたアジフライや、中濃ソースをひったひたにまぶした蟹クリームコロッケに最高にマッチするんですよ、これが。どのお店でも大人気で、入荷するとすぐに売り切れてしまうそう……見つけたあなたはラッキー、ぜひお手にとってみてください。
「こだわりの自然派ワインだから、体にも優しいよね。なにせ無添加なわけだし……」と思いながらボトル裏のラベルを見ると、「酸化防止剤(亜硫酸塩)」の文字が目に飛び込んできました。
頭に浮かんだのは「あれー! 自然派ワインでも亜硫酸塩って入っているものなの? そもそも “自然派”ってどういう意味だっけ……?」という疑問です。漠然と「有機農法で栽培したブドウを使い、添加物を加えずに造ったワイン」だと捉えていましたが、果たしてその実態はいかに……。今一度しっかり理解するべく、調べてみました。
「自然派ワイン」を英語でいうと「ナチュラル・ワイン」、フランス語でいうと「ヴァン・ナチュール」。実は最近まで明確な定義はなく、漠然と「酸化防止剤無添加、もしくは無添加を目指すワイン」とされていたのだとか。ブドウの有機農法に関する認証制度には歴史があり「有機ワイン(オーガニック・ワイン)」については厳しく規制されてきましたが、醸造工程まで含めて「これが自然派ワインだ!」という定義は明確に用意されておらず、造り手の裁量に任される部分が多かったようなのです。
ブドウの有機農法には二種類あります。「ビオロジック農法」と「ビオディナミ農法」です。どちらも化学肥料や農薬を使わない点は共通していますが、簡単にいうとビオロジックよりビオディナミの方がより厳格なやり方です。ビオディナミでは太陽の動きや月の満ち欠けなど、壮大な自然を意識します。とあるワイナリーのノベルティで月の満ち欠けカレンダーをもらったことも……!
ビオロジックの認証で有名なのはEUのユーロリーフ(EU産有機農産物マーク)、ビオディナミの認証で有名なのはドイツのDemeter(デメテール)。それぞれ認証されると「有機ワイン(オーガニック・ワイン)」として認められ、認証マークをつけることができます。
ただ最近は、ユーロリーフもデメテールもワインに対して醸造過程での添加物量に関する規定を定めるようになり、それをクリアした場合のみ認証されるようになりました。冒頭で紹介したスパークリングワイン「ビュル・ド・ヴィ」も酸化防止剤が入っているものの規定を満たしているため、ユーロリーフのマークとデメテールのマークが両方ともついています。ユーロリーフの記載は義務化されているので、こんな風に並ぶケースがあります。
さらにフランスでは2020年3月から「Vin méthode nature(ヴァン・メトード・ナチュール)」という新しいナチュラル・ワイン認証制度が始まりました。有機栽培を前提により厳しく醸造過程での添加物規制に踏み込む内容となっており、今後この認証を受け、認証マークをラベルにあしらった自然派ワインを目にする機会が増えていくことが予想されています。
ユーロリーフもデメテールもヴァン・メトード・ナチュールも、ヨーロッパの自然派ワイン認証制度ではある程度の酸化防止剤添加を認めています。なんとなく酸化防止剤は “ナチュラル” の対極にある悪者のように扱われがちですが、一概にそうともいい切れません。
酸化防止剤の主流は亜硫酸塩(SO2)。主な働きはその名の通り、酸化防止です。特に海外へ輸出する場合、酸化防止剤は品質を保つ上でとても重要になります。この他、抗菌・殺菌作用や清澄作用(ワインをクリアにする効果)、味わいをシャープにする効果などがあり、美味しいワインを安心して飲むのに一役買っているのです。さらにSO2は人工的に添加しなくても自然界に存在する成分なので、「SO2無添加」をうたっているワインでも少量は必ず含まれています。これらの理由から有機ワイン認証制度や自然派ワイン認証制度の規定でも一定のSO2は許容されているわけです。
ただ、SO2の過剰摂取は体に害を及ぼすリスクがありますし、本来時間とともに変化するワインの味わいを過度に操作するのは「自然」から遠ざかってしまう行為です。「自然派ワイン」をPRするなら必要最低限のSO2添加にとどめ、できるだけ自然の状態を保とう! という動きが活発化しているわけです。
ワインの本場、ヨーロッパでの自然派ワインの定義について理解したところで、日本の状況をみてみます。大前提としておさえておきたいのは、日本でもやはり「自然派ワイン」に明確な定義はないということです。暗黙の共通認識として「自然を尊重し自然との共生をモットーに化学肥料等を使わずブドウを栽培すること」、「できるだけ添加物を使わずナチュラルな味わいを大切にすること」のふたつがあげられますが、どのようなポリシーでワイン造りを行うかは造り手の裁量に任されています。
「有機ワイン(オーガニック・ワイン)」についてはヨーロッパと同じように厳しい基準をクリアしなければなりません。ワイン等の酒類は国税庁が定める「酒類における有機等の表示基準」に従う必要があるそうです(認証制度も用意されていますが、義務ではないそう)。ちなみによく「有機JAS認定」を受ければOKと思われがちですが、「有機JAS認定」の管轄は農林水産省なのでワインには当てはまらないそうです。
自然派ワインは必ずしも「有機ワイン(オーガニック・ワイン)」とイコールではない……というのがややこしさを増す原因になっているのですが、今のところ私たちが目にする「自然派日本ワイン」は、ビオロジックやビオディナミといった有機農法でブドウを栽培し、できるだけ添加物を削減したワイン……といってしまっていいかと思います。造り手によって基準は少しずつ異なるので、ワインのプロフィールを確認しつつ自分の求める自然派ワインを探したいところです。
自然派日本ワインは造り手によってさまざまな基準がある……と言いましたが、「せっかく “自然派” を選ぶならとことんこだわったものを選びたい!」というのがワイン好きの心理ではないでしょうか。そこで、数ある自然派日本ワインの中から “こだわり派” のおすすめ銘柄を3つご紹介します。
京都にあるワイナリー「丹波ワイン」の自然派スパークリングです。酸化防止剤無添加、無濾過でにごりのあるタイプ。フレッシュな口当たりながら酵母の香りがとっても香ばしく、つい「もう1杯……」といきたくなってしまいます。通常の750mlボトルのほか500mlのプチサイズも出ており、お値段も非常にリーズナブルなのでお試ししやすい一本です。チーズとの相性が抜群ですよ!
※リンク先はAmazon freshです。
宮城県にあるワイナリー「Fattoria Al Fiore(ファットリア・アル・フィオーレ)」の自然派ロゼワイン。ネコ・シリーズには全部で7種類の “猫ラベル”ワインがあり、それぞれにオーナーの飼い猫の名前がつけられています。これはそのうちのひとつ、HANAちゃんのワインです。少しメローな雰囲気を感じさせるスタイリッシュなワインです。こちらも酸化防止剤無添加、無濾過。Fattoria Al Fioreでは酵母も野生酵母、発酵にはアンフォラ(素焼きのツボ)を使うなど、随所にこだわりが光っています。
※写真は2017年ヴィンテージですが、現在販売されているのは2020年ヴィンテージのものです。ラベルデザインはヴィンテージごとに異なるのでご留意ください。
山梨県にあるワイナリー「ドメーヌ・ヒデ」の自然派ロゼワイン。ブドウ品種は日本が誇るマスカット・ベーリーA。ドメーヌ・ヒデでは「新月日樽出し滓引き(しんげつびたるだしおりひき)」などのビオディナミ製法にこだわっています。以前オーナーにお話を伺った際「毎年「白いワインになって!」と願いを込めながら造っているんですよ〜、そうすると黒ブドウから素敵なロゼが生まれるんです」とお茶目なコメントをいただきました。よく冷やして冷奴にあわせると、日本の夏を感じられますよ!
吉田すだち ワインを愛するイラストレーター
都内在住の、ワインを愛するイラストレーター。日本ソムリエ協会認定
ワインエキスパート。ワインが主役のイラストをSNSで発信中!趣味は都内の美味しいワイン&料理の探索(オススメワイン、レストラン情報募集中)。2匹の愛する猫たちに囲まれながら、猫アレルギーが発覚!?鼻づまりと格闘しつつ、美味しいワインに舌鼓を打つ毎日をおくっている。
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