2021年09月29日

【造り手インタビュー】奈良の新生ワイナリー「木谷ワイン」

皆様、こんにちは。インポーターの大野みさきです。
今日は奈良初のワイナリー設立を目前に、奮闘する若き青年の物語です。

調べてないですが、醸造所の設立では最年少だと思います

そう答えるのは、2022年誕生予定のワイナリー「木谷ワイン」の木谷一登さん(31)

9月の過日、収穫の最盛期に取材を受けてくださり、「木谷さんは何者ですか」の初端の質問に「農家です」と一言。ワイン造りのお仕事は一見華やかそうに思われるかもしれませんが、その返しに全てが物語られていました。

ワイン造りのきっかけ

彼がワインに興味を持ったのは、23歳の大学生の時。当時、京都大学大学院医学研究科で分子生物学(糖尿病の研究)を勉強していました。

プライベート旅行の帰路、那覇空港でピーロート・ジャパンのベーレンアウスレーゼ(甘口白ワイン)を飲んだ時の感動は、今も忘れないと語ります。卒業後は銀行に就職、融資課で窓口営業や住宅ローン(個人)の受付業務などを担当していたことも。

就職して数年後、ワイン造りは一生飽きない仕事だろうと大阪・柏原「カタシモワイナリー」の門を叩きます。上司の手引きで社長の高井さんを紹介され、国の制度を活用し、まずは研修生としてワインの世界に足を踏み入れました。

大阪「カタシモワイナリー」での経験

1年目は下働き。もっぱら畑仕事です。夏はひたすら仕込み作業に従事します。

2年目は勉強の日々です。畑の管理を任され、自分のワインも造らせて貰えるようになりました。初めて仕込んだワインは、酸化によって本来の香りが飛び、酸化りんごのようなニュアンスが出ましたが、2次発酵が功を奏し、結果オーライの出来だったそうです。

ぶどう農家として独立

2018年にぶどう農家として独立。

奈良と大阪でぶどうを栽培し、大阪・柏原「天使の羽ワイナリー」、三重・名張「國津果實酒醸造」などで醸造所を間借りし、委託醸造でワインを仕込みました。 

現在は8ヶ所に細分化された借地畑を1ha管理し、モンドブリエ(白ぶどう)やビジュノワール、ピノノワール、メルロー(黒ぶどう)など20種類を混植しています。

苗木から育てた2000~2500本は、樹齢4年と若いですが、これからの活躍が大いに見込めます。また、樹齢50年のデラウェア畑を農家さんから引き継ぎ、トータルで2800本を木谷さん一人で世話しています。

木谷さんと畑仕事

朝から晩まで生活の大半を畑で過ごす木谷さん。それならばと期待して、ワイン造りの苦悩を伺いました。

「いつでも畑は自然と隣り合わせ。美味しく実ったぶどうですから、獣害にも遭います」

奈良のシンボルである鹿に食べられるとは何とも皮肉な話。また雨の被害も深刻で、今年は水膨れで果粒が割れ、ピノノワールの半分を失いました。

困難を苦労と思わず、むしろ「なるようになる!」と楽しんでいるかのように、自身に与えられた試練はしっかりと受け止めている様子が印象的でした。

畑で過ごす時間がこの上なく好きで、毎日が発見の連続。

とりわけ虫の観察が日課。前年には現れていない虫が、今年に見られたのは何故だろう。過去の状況と比較して、虫からのヒントを栽培に活かします。通りで畑にいる時間も長いわけです。好きこそ物の上手なれ!これが彼の原動力で間違いありません。

ぶどうへのこだわり

モンドブリエの選果作業中だったので、見分けるコツを伺いました。

ズバリ食べてみること。未熟粒や腐敗粒は全てハサミで取り除きます。茶色くなって一見、腐ったような粒でも、食べてみたらアロマがのって最高に美味しいこともあります。見分けが付かない時は勇気を出して食べてみて下さい

アドバイスを受けて、各国で数々の選果を経験している筆者も驚くほどの時間をかけ、作業を行いました。1房ずつ念入りに、健全なぶどうだけを丁寧に残します。

選果のビフォーアフターをご覧下さい。どうですこの美しさ。まるで宝箱の宝石のようです。

ついに「木谷ワイン」が誕生します!

ワイン造りに携わって5年半、2022年6月にとうとう自身のワイナリー『木谷ワイン』が誕生します。しかも、奈良県初のワイナリーです。

香芝市役所の近くでアクセスも抜群です。将来はイベントなども開催して、気軽に立ち寄って貰えたら嬉しいです。人が集いワインが楽しめる場所になれば良いなと思います。

今後はフルスイングでいきたい。ビニールシートを掛けなかったり、オーガニック栽培をしたりするとリスクが高い。ですから毎年平均点のワインじゃなくて、20点のワインがあっても大いに構わない。主観で美味しいもの、世の中に合わせず、僕が飲んで本当に美味しいと思うものを造りたい。これから100点を目指します

今年のぶどうで作るワインの出来は?

「今年のワインは30点」と木谷さん。取材時は収穫段階で、今年はまだワインが出来上がっていません。

8月に仕込んだステンレスタンクのワインを試飲したところ、フレッシュ&ピュアで上々だと思いましたが、彼が目標とする頂は遥かに高いのです。

昨年はモンドブリエを10日間醸して造ったところ、ニュートラルなワインになってしまいました。元々マスカット香が特徴の品種なので、今年はアロマを最大限に引き出すか、ハイーパーオキシデーションで紅茶色の酸化のニュアンスが強いものにするかで、色々と遊んでみようと思います。

長期熟成タイプも可能になるし、衛生面が整った醸造所では産膜酵母が発生しないように注意しながら酸化的ワインも手掛けられます。

温度管理も自由にできるようになるので、通常2週間のところを6ヶ月間にして、5℃の低温長期発酵にも挑戦できます。短いと香りが抜けますが、長いと本来ぶどうが持っているアロマのポテンシャルが存分に残るのです

来年から晴れて自身のワイナリー。目を輝かせながら、その意気込みを語ってくれました。

■デラウェアスパークリング2018


小売参考価格 税込4,400円

羽曳野市産のデラウェアを使用。あれだけ徹底した選果なので、雑味のない喉越しクリアな印象。やや酸化のニュアンスもあって、ぶどうの果皮の魅力が感じられる。元妻が書き起こした鹿のデザイン、このエチケットをこのまま使い続けても、良いものなのかと考えたりするらしい。

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■山野辺Petillant 2019


小売参考価格 税込3,300円

天理市産のデラウェアを使用。生産本数400本の辛口スパークリングワイン。ナチュラルでジューシー、まるで果実そのものを食べているかのよう、しずるジュース感がある。ワイン通して奈良の風土が伝わってくるような1本。

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木谷ワインの楽しみ方

マリアージュする料理を提案するよりは、自分が飲みたいシチュエーションを提示していこうと思っています。例えばデラウェアスパークリング2018なら、冬にコタツでみかんを食べる時に!

ぶどうは農作物のため天候に左右されます。その違いを楽しむこと。水を感じるワインでも良いのです!それが日本のテロワールですから。それらがボトルに詰められ、自身の経験、サイエンスと知識を駆使し、クラフトでありながらもアートである、こんなに面白いことが他にあるでしょうか

ワイン造りに意義を見出しているからこその姿勢です。

最後に

今日は木谷さんの見つけた『面白い人生』をご紹介しました。「人生は暇つぶし」と彼は表現しました。与えられた有限の時間をどうやって使うかです。

自然派ワインを造ろうと思っていないし、こっちの方が面白い。薬を撒いてコントロールすると、見えてこないものもあります。奈良のテロワールを一生かけて追求しても、きっとわからず終わるのだろうな

そこには、標準化を求めず常に模索し、試行錯誤していこうという挑戦の姿が映し出されています。満点を取ったとしても彼の物語は続くことでしょう。ワインを飲みながら応援して、末永く見守っていければと思います。

それでは皆様、ごきげんよう!

 

木谷ワイン/KITANI WINE ホームページワイン造りの奮闘記や想いは必読!

 

おまけ:奈良のワイン情報
「一番手はいつも大変ですから、それは彼に任せて、私はその後に続きます」と語るのは、『奈良ぶどうでワインを造る会』の筒井正光さん(70)。人生まだまだこれから!と自分で作ったぶどうでワインを造ることを目指しています。
木谷さんを追いかけて、奈良にも続々とワイナリーが誕生しそうな予感です。

筒井正光マダーレッド2018 巨峰100%の甘口ワイン500ml(オープン価格)

 


365wine 大野みさき

スロヴェニアワイン輸入元365wine㈱ 代表取締役。
元ANA国際線CAが、7年の在職中にワインに魅せられ渡仏。2014年に帰国し、ひと月でワイン輸入会社を設立。買付け、営業、展示会、ウェブショップ運営、倉庫作業をヒィヒィ言いながらも華麗にこなす。巷ではスロヴェニアワインの第一人者と囁かれている。まんざらでもない。ワイン講師、サクラアワードの審査員も喜んで引き受ける。毎日ワインを飲むのか尋ねられたら、「はい、365日ワインです♡」と返すよう心掛けている。

【ワインショップ】http://www.365wine.co.jp/
【instagram】https://www.instagram.com/365wine/

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