
2021年02月07日
甘口ワインといえばアイスワインや貴腐ワインなどのデザートワインを思い浮かべますが、ポートワインも忘れてはいけません。辛口ワイン好きの人からすると「甘口ワインは口に合わないな……」と思われがちですが、侮るなかれ。甘口は甘口でも、ポートワインは「酒精強化ワイン」。アルコール度数が高く、複雑な香りが特徴的な大人の飲み物なのです。
今回のコラムは、そんなポートワインについて。特に有名な銘柄「SANDEMAN」をピックアップしつつ、美味しい飲み方を探ります。
まずはポートワインの基本プロフィールを押さえておきましょう。
ポートワインはポルトガルの北部に流れる川「ドウロ川」の上流周辺で造られる「酒精強化ワイン」です。川をくだって下流にある「ポルト港」から世界へと出荷されるので、港の名前をとって「ポルト・ワイン」……英語読みで「ポートワイン」と名付けられました。
ポルト港周辺の街並みは目をみはるほど美しく、観光地としても人気です。本当かどうかわかりませんが、ジブリ映画「魔女の宅急便」のモデルになったという噂も耳にします。たしかに、どことなく見覚えがあるような、ないような……。
「ポートワインはイギリスが育てた」と言われるほど、イギリスと関係が深いワインです。その昔、英仏戦争に敗れワイン銘醸地ボルドーを失ったイギリスは、新たなワイン供給地をもとめました。「お隣のスペインはフランスと同盟関係にあるからスペインワインも手に入れにくいし……。」困ったイギリスが目をつけたのが、ポルトガルだったのです。
当時、ポルトガルからイギリスへの船便ではワインの品質を保ちにくく、完成したワインにブランデーを添加して凌いでいたのだそうです。その少々荒々しい味わいはイギリス貴族たちの舌にいまいち合わず、どうしたものかと途方にくれていたところ、とある修道院で造っていた「発酵途中のワインにブランデーを添加した甘口ワイン」の存在に気づきます。完成したワインにブランデーを添加したものとは違い、その味わいはなんとも滑らかかつ優美で、「これだ!」とひらめいたワイン商たちの手によりイギリスに持ち込まれました。狙いどおりイギリス貴族の間で大流行したそのワインは「ポートワイン」と名付けられ、今日にいたるまで愛され続けているのです。
ポートワインはポルトガルの「マデイラ」、スペインの「シェリー」と並び、「世界三大酒精強化ワイン」のひとつ。発酵途中のワインにアルコール度数77度のブランデーを添加して発酵を強制的にストップさせて造られます。そのためブドウ由来の糖分が残り、甘口に仕上がるわけです。イギリスでは食事会の最後に高級なポートワインをデザート代わりに振る舞うことがホストの務め……といわれるほど、大人の嗜みとして根付いているのだそうです。
今回ピックアップするポートワインのメーカーは「SANDEMAN」。ポートワインメーカーの中でも特に老舗のワイナリーで、イギリス王室御用達です。シャンパーニュでいうところのポル・ロジェ的なポジションでしょうか。1790年、スコットランドの家具職人の息子が25歳のときにワイン商として独立し、設立しました。イギリスでのポートワインブームの立役者のひとりです。ポートワインを語るうえでSANDEMANは外せません。
さまざまな “世界初” の称号を得ているワイン界のパイオニアでもあります。「ワイン界で初めてブランドロゴの商標登録を行なった」とか、「ワイン界で初めて樽に自社商標を印字しブランド化をはかった」とか。商いの才覚に秀でたワインメーカーなのです。
ラベルデザインに使われている「ドン」というキャラクターも、ワインの宣伝に使われた世界で初めてのシンボルマークといわれています。1928年に誕生したこのキャラクターは、スペインの帽子をかぶり、ポルトガルの世界遺産コインブラ大学の制服をまとい、ルビーポートのグラスを手にしています。ポルトガル人が考える “かっこいい男” を象徴しているのだとか。以前海外のテレビでSANDEMANが紹介された際、出演者の方が「It’s like The Mask of Zorro!(怪傑ゾロみたい!)」と表現していました。クールなラベルに包まれているけれど、中身は甘く滑らかな口当たりなんですよね。そのギャップも面白いです。
世界遺産のコインブラ大学
「ブランデーを添加して造られた……」なんていわれるとつい「でもお高いんでしょう……?」と勘繰ってしまいますが、「ルビーポート(※)」なら2,000円以下で手に入ります。興味のある方はぜひお手にとってみてください。
※ポートワインには黒ブドウから造られる「レッド・ポート」と白ブドウから造られる「ホワイト・ポート」があり、さらにそれぞれ熟成年数等により格付けされています。「ルビーポート」は「レッド・ポート」の一種で、最もフレッシュ&カジュアルなポートワインです。
それでは、SANDEMANのルビーポートの美味しい飲み方を3つご紹介します。
【ワインの味わいメモ】
まるで黒ブドウのレーズンを食べているような、濃厚な味わいが特徴的。フレッシュでありながら、土っぽい香りやきのこのような複雑なニュアンスを感じます。渋みはあまりなく、口当たり滑らか。ブランデー、デザートワイン、赤ワイン、それぞれのいいところをぎゅっと詰め込んだような、宝石箱のようなワインです。
まずは王道の楽しみ方! 甘口ワインなので味のしっかりしたチーズとの相性はバッチリです。今回はチーズ専門店のスタッフさんに相談して二種類を用意しました。
牛乳から造られるクリームタイプのチーズ。バターのような濃厚な風味と濃い塩味が特徴です。クリーミーなチーズの風味と円熟したレーズンのようなポートワインの甘い風味が合わさると、極上のデザートに早変わり。とろとろのチーズをスプーンですくって口に含みつつ、ポートワインをちびちび飲むのがおすすめです。
フランスで最も有名なブルーチーズはロックフォールですが、こちらも同じく羊のミルクから造られるブルーチーズ。ただのブルーチーズとは違い、バスク地方ならではの「セミハードタイプ」のポクポクした食感が楽しめます。青カビの独特な風味に加えて有名なハードチーズ「コンテ」のような栗っぽい風味もあり、面白い味わいです。ポートワインにあわせると、どことなく秋の味覚を感じます。
ポートワインは「酒精強化ワイン」なので、アルコール度数は高め。SANDEMANのルビーポートは19.5度です。アルコールが苦手には、炭酸で割って飲むのがオススメ! イタリアのスパークリング赤ワイン「ランブルスコ」の甘口タイプのような味わいを楽しめます。ワインと炭酸水を1:1〜1.5の割合でまぜるのがオススメ。薄すぎず、炭酸もしっかり感じられるバランスです。ヘーゼルナッツをポリポリつまみながらビール感覚で楽しみましょう。
個人的に最もお気に入りなのがこの楽しみ方! ベリー系のソースをかけたような見た目ですが、口に含むととっても大人の味です。ラムレーズンアイスのような雰囲気ですが、黒ブドウ由来のフルーティな香りが独特な風味を演出してくれます。もう〜とにかく美味しいんです、バニラアイスのポートワインがけ……! 本当に、本当に美味しいからぜひお試しください。ちょっと多いかな……くらいに、思い切ってドバッとかけるのがポイントです。
吉田すだち ワインを愛するイラストレーター
都内在住の、ワインを愛するイラストレーター。日本ソムリエ協会認定
ワインエキスパート。ワインが主役のイラストをSNSで発信中!趣味は都内の美味しいワイン&料理の探索(オススメワイン、レストラン情報募集中)。2匹の愛する猫たちに囲まれながら、猫アレルギーが発覚!?鼻づまりと格闘しつつ、美味しいワインに舌鼓を打つ毎日をおくっている。
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