2021年10月20日

驚きのニュースでワイン界を揺るがした銘醸地「サン・テミリオン」の旅〜格付けワインでBYO〜

2005年にアカデミー賞を受賞した映画「サイドウェイ」は、「主演=ワイン」といっても過言ではないほどワインが活躍する映画です。ワインを中心としたストーリー展開のなか、なんといってもクライマックスに登場するワインが最も印象的。ワイン愛好家たちの垂涎の的、フランスはサン・テミリオンの最高峰「シュヴァル・ブラン」1961年ヴィンテージが画面をにぎわします。

シュヴァル・ブランは、ボルドーで通常ブレンドに使われる脇役的品種「カベルネ・フラン」を主役として扱う珍しいワイナリーです。シュヴァル・ブランが登場することで、映画のクライマックスに「いつまでも脇役に甘んじなくてもいいんだよ」というメッセージが込められているように感じます。「サイドウェイ」をまだ観ていない方は、ぜひ一度ご鑑賞ください。

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ワイン界を揺るがしたビッグニュース

さて、今年7月のこと。ワイン界を揺るがすビッグニュースが世界をかけ巡りました。サン・テミリオンの格付けから、長年トップの座に君臨し続けた2軒のワイナリーが辞退することになったのです。その2軒とは「オーゾンヌ」と「シュヴァル・ブラン」……なんと「サイドウェイ」のクライマックスを彩ったワインが格付けを離脱することになろうとは……!

サン・テミリオンの格付け制度には3段階の位があります。最も権威ある位は「プルミエ・グラン・クリュ・クラッセA」といい、わずか4軒のシャトーのみがランクインしています。そのうち2軒が「オーゾンヌ」と「シュヴァル・ブラン」。1954年の制度開始以来、この2軒は不動のトップ2と言われてきました。残りの2軒(「アンジェリュス」と「パヴィ」)がランクインしたのが2012年のことなので、つい最近まで独占状態だったわけです。

半世紀以上の格付け常連シャトーが自ら退くには理由があります。それぞれ声明を発表していますが、要するに「格付けの基準とワイナリーのポリシーが合わなくなってきたから」ということのようです。サン・テミリオンの格付けは約10年ごとに精査されているため信頼度が高く「世界で最も権威がある」と評価されることも少なくありませんでした。しかし最近では「テロワールやワインの質、シャトーの歴史」といった従来の評価基準よりも「市場での評判や最先端のマーケティング手法」といった新しい評価基準の比重が高まっているといわれます。その状況に老舗シャトーが異を唱えたのが今回のニュースというわけです。

「オーゾンヌ」と「シュヴァル・ブラン」はすでに確固たるブランドを築き上げているので、格付けに頼る必要がないのかも知れません。一方、時代とともに変化しようとする制度側の事情や他のワイナリーの事情も理解できるので、サン・テミリオンのワインのファンとしては少し複雑な気持ちです。

スキャンダルが似合わない、のどかなサン・テミリオンの魅力

スキャンダラスな雰囲気が漂う今回のニュースですが、実際にサン・テミリオンを訪れると、スキャンダルとは真逆の印象を感じるはずです。

海外のワイン銘醸地へと気軽に足を運ぶことはできませんが、実はサン・テミリオンには行ったことがあります。まだコロナウイルスが蔓延する前、のんびりと過ごしたサン・テミリオンでの時間は忘れられません。ほんの一部ですが、サン・テミリオンの魅力をご紹介します。

ユネスコ世界遺産の美しい街並み

サン・テミリオンの街は世界遺産にも登録されているほど、とても美しい場所です。小高い丘の上に建つ教会を取り囲むように、石畳の道や階段が張り巡らされています。教会内も見学できますが、街並を眺めながら散歩したりお店を冷やかしたりするのが何とも楽しく、オススメです。

散歩の途中、地元の猫にもご挨拶。

中心街から一歩外に出ると、街を取り囲むように広大なブドウ畑が広がっています。石造の街とのコントラストが印象的です。

ワインに合わせて楽しみたい、銘菓マカロン

サン・テミリオンはマカロンの名産地でもあります。マカロンといっても、よく見かけるカラフルでオシャレなタイプではありません。もっと素朴でほっとするような、親しみやすいタイプのマカロンです。ワインともよくあいます。街の入り口でマカロンを買って、ベンチに座ってワインを嗜む……そんなオシャレな過ごし方はいかがでしょうか。

マカロンを作っている様子を見学させてもらいました。小さいサイズの他、渦巻き状の特大サイズも……!?

陽気で親しみやすい店員さん。店頭ではワインも販売されていました。

天然の地下カーヴ

サン・テミリオンの土壌は石灰岩でできており、昔の人は地下の石灰岩をくり抜いて家や教会を建てたそうです。その時にできた巨大な地下洞窟が、天然のカーヴ(樽貯蔵庫)として使われています。年間を通して気温や湿度が安定しており、ワインにとっていい環境なのだそうです。

私はシャトー・カルディナル・ヴィルモリーヌにお邪魔して、地下カーヴを見学しました。ヴィルモリーヌはサン・テミリオン格付けの3番目の位(グラン・クリュ・クラッセ)にランクインしている64シャトーのうちの1軒です。

地下カーヴの通路は巨大な迷路のようで、そこかしこに樽が置かれています。今まさに発酵中のワインたちです。

所々にオブジェが置かれ、ライトアップされていました。美術館のような雰囲気です。ワイン醸造もアートの一種……なのかもしれませんね。

サン・テミリオン格付けワインでBYO

わが家のワインセラーには数年前から、とっておきのサン・テミリオン格付けワインが眠っていました。ずっと飲み頃をうかがっていたのですが、ワイン界に衝撃を与えたあのビッグニュースに触れて以降「いまが飲み頃だって神さまがおっしゃっているのではないだろうか」と、いてもたってもいられない状態に。緊急事態宣言のなか、もんもんとした時間を過ごしていたのですが、ようやくお店に持ち込める状況になったので早速行きつけの飲食店に頼んでBYOを決行しました。いいワインはやっぱりBYOで楽しまないと損ですからね……!

持ち込んだのはこちらのワイン。

シャトー・トロロン・モンド 2013

シャトー名がキュートなトロロン・モンドは、サン・テミリオン格付け2番目の位にあたる「プルミエ・グラン・クリュ・クラッセB」の14シャトーのうちの1軒です。上位18シャトーに入るワイナリーなので、ズバリ “いいワイン” です(お値段2万円弱)。家で適当なおつまみに合わせるのはもったいないでしょう? この1年半、こういうワインをBYOして楽しめる世の中が戻ってくるのをどれだけ待ち焦がれたことか。とはいえまだ調子に乗ってはいけないので、早めの時間に来店して一本のボトルをゆっくりいただきました。

すでに8年熟成しているこのワイン。一口めは香りも味も弱く、一瞬「嘘だろ……」という考えがよぎったところに、すかさず「デキャンタージュした方がいいですね」とソムリエからフォローが。デキャンタにうつされたワインはさっきまでとはうって変わって芳醇で、いわゆる “開いた”状態になりました。プロの手によりいいワインを最高の状態で楽しめる……これこれ、これぞBYOの醍醐味よ! 

メルロー主体の王道ボルドーワインなので、その華やかさが引きたつようお肉料理に合わせていただきました。渋みの強いボルドーワインにはレアな焼き加減のお肉の旨味と脂がとてもマッチするっていうことを思い出した瞬間です。家で適当に抜栓しなくてよかった……心からそう思ったのでした。

最後に

サン・テミリオンの格付けは来年2022年に見直しが入ることになっています。すでにオーゾンヌとシュヴァル・ブランは辞退しているので、「プルミエ・グラン・クリュ・クラッセA」は2軒減ることが確定済み。一方、別のシャトーが昇格するのではないかという噂もまことしやかにささやかれています。格付け勢力図が変わるのか否か……発表まで目が離せません。

 


吉田すだち ワインを愛するイラストレーター

都内在住の、ワインを愛するイラストレーター。日本ソムリエ協会認定 ワインエキスパート。ワインが主役のイラストをSNSで発信中!趣味は都内の美味しいワイン&料理の探索(オススメワイン、レストラン情報募集中)。2匹の愛する猫たちに囲まれながら、猫アレルギーが発覚!?鼻づまりと格闘しつつ、美味しいワインに舌鼓を打つ毎日をおくっている。
【HP】https://yoshidasudachi.com/
【instagram】https://www.instagram.com/yoshidasudachi

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