2021年12月15日

これって本当? チリのプレミアムワインから考える音楽とワインの神秘的な関係

初売りの楽しみのひとつに「ワインの福袋を買う」というイベントがあります。福袋ってちょっとした運試し要素がありますよね。期待どおりにならないこともあります。でも、少しお得な価格でいいワインをゲットできたり、いつもなら積極的に手を伸ばさない銘柄との新しい出会いを楽しめたり……そんなラッキーを期待して、また来年も買ってしまうことでしょう。

数年前、プレミアムワインが1本入った福袋を買いました。運がよければオーパスワンやボルドー五大シャトーのワインがゲットできるという魅力的な企画です。届いた福袋をドキドキしながら開封すると……中から出てきたのはチリのモンテス・ワイナリーが手がける「モンテス・アルファ M(生産年:2017年)」でした。

「チリワインか〜、プレミアムワインの福袋を買ったのにちょっと残念だね」と思われるかもしれませんが(実際、その福袋では一番下のランクでしたが)、あなどるなかれ。安うまワインとしてお馴染みのチリワインと言えども、1万円を超える高級ラインです。味わいも一級品。もともとチリの気候と土壌はワイン用のブドウ栽培にとても適しており、チリワインにはずれなし! と評価されています。その中でもプレミアムの称号を誇る「モンテス・アルファ M」は文句なしの美味しさ。オーパスワンやボルドー格付けワインにも引けを取らない、高品質なワインなのです。実際、過去にはオーパスワンを超える評価を獲得したこともあります。

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「モンテス・アルファ M」について注目すべきは、その美味しさだけではありません。モンテス・ワイナリーでは一風変わったワイン造りを行っています。世の醸造家はみな、自社商品の品質を上げるために日夜さまざまな工夫をこらしていますが、モンテスの取り組みは特に神秘的でスピリチュアルで……とにかく面白いのです。どのようなワイン造りかというと……。

ワインが音楽を聴いている!? モンテスワインとグレゴリオ聖歌

モンテスが所有する「アパルタ・ワイナリー」という施設には、プレミアムワインを熟成させるための建物があります。建物内は半円状の部屋になっており、ワイン樽がまるで劇場の観客席のように同心円を描いて陳列されています。入り口をくぐるとちょうど自分が舞台の上に立っていて、薄暗い客席で樽たちがショーの始まりを待っているような……そんな錯覚を起こすレイアウトです。

おごそかな空気の中、部屋中に響いているのは「グレゴリオ聖歌」!

グレゴリオ聖歌とは「ローマカトリック教会の伝統的な典礼のための聖歌」です。なんと熟成中のワインが入った木樽に、24時間365日「グレゴリオ聖歌」を聴かせているのです……! モンテス・ワイナリーの公式サイトでは、オーケストラ楽団が熟成庫の中でグレゴリオ聖歌の生演奏を奏でている動画を観ることができます。以下のサイトにアクセスして一番下までスクロールすると動画リンクにたどり着きます。ご興味のある方はぜひ一度、この神秘的で、不思議な光景をご覧ください。

モンテス・ワイナリー公式サイト

音楽とワインの神秘的な関係

イギリスで制作されたワイン番組「The Wine Show」の中で、モンテス・ワイナリーが取り上げられた回がありました。名物ソムリエのジョン・ファットリー二氏が実際にワイナリーを訪れ、関係者にインタビューを実施。大学でワイン造りを科学的に学んだというモンテスの担当者は「音楽の振動はワインの分子構造に影響する。それを利用することでワインが美味しくなる」と語ります。一方、半信半疑の様子で「本当ですか?」と鋭くつっこむファットリー二氏。観ていて少しヒヤッとする場面です。
参考:「The Wine Show -極上のワインに魅せられて- #2 ときに反逆の精神で」(WOWOW)

ワインにグレゴリオ聖歌を聴かせるという発想は「サイマティクス」という研究分野から発展しているそうです。サイマティクスは「物の固有振動や音を可視化する研究」といわれます。金属板などの上に細かい砂を置いて振動をあたえると、振動のレベルに応じて砂がさまざまな幾何学模様を描き出す……そんな映像を観たことがある方も多いのではないでしょうか。そこに着想を得て、「特定の振動を与える=音楽を聴かせることでワインの味わいが変化する」という考えにたどり着いたのだそうです。

では、なぜグレゴリオ聖歌なのか。グレゴリオ聖歌は「癒しの音楽」と言われています。「ソルフェジオ周波数」という、リラックス効果の高い周波数が含まれているのだとか。聴くと呼吸のリズムが整うといわれており、瞑想中に流す音楽として推薦する人もいます。伝統的なスタイルは伴奏なしの声楽音楽で、男性の合唱により歌われます。決まったリズムもなく、つかみどころのない不思議なメロディーです。音響効果の高い部屋に響く男性の低い歌声は、確かに聴くものの心を落ち着かせる効果を感じます。

人をリラックスさせる音楽なのだから、ワインにもいい影響を及ぼすはず……それがグレゴリオ聖歌を聴かせる理由なのでしょう。モンテス・ワイナリーの創業者であるモンテス氏も「穏やかな波長はワインの質を向上すると信じている」と語っています。これまでに、グレゴリオ聖歌やソルフェジオ周波数による癒し効果を主張する研究は複数発表されています。しかし、今のところ明確な科学的根拠は出ていません。残念ながら「ワインに音楽を聴かせることでワインが美味しくなる」という主張も、科学的に裏打ちされたわけではないということ。その事実がファットリーニ氏の鋭いつっこみにつながっています。

ただ、グレゴリオ聖歌が響くモンテスの熟成庫、そこに鎮座するワイン樽を目の当たりにすると、何か神秘的な力が働いているように思えてなりません。もはやスピリチュアルなものなので、信じるか信じないかはあなた次第……。そういう側面もモンテス・ワインの個性のひとつとして楽しむのをおすすめします。グレゴリオ聖歌の効果かどうかはわかりませんが、実際「モンテス・アルファ M」の美味しさはお墨付きです。

ワインは「振動」で美味しくなる?

日本で行われた「音楽とワイン造り」に関する面白い実験をご紹介します。1991年発行の日本醸造協会誌にて発表された実験で、音楽による「振動」を直接ワインに伝えたところ、なんとワインの美味しさが向上したというのです。

実験では、トランデューサーという機械を使って音楽を振動に変換し、ラックに並べられたワインボトルに直接振動を与えました。その後ソムリエにテイスティングをしてもらったところ、何もしていないワインより高い官能評価を得ることができたそうなのです。この記事では「ただ音楽を流してもワインにはなんの影響もないが、音楽を物理的な振動に変換することでワインの分子構造に影響が及ぼされる」と結論づけています。
参考:日本醸造協会誌(1991年10月15日) – 「音楽振動の酒類への利用」小松明

少し古い実験であり、美味しさアップの根拠がソムリエによる官能評価なので、この実験結果が100%正しいとは言い切れません。ただ、こんなに早い時期から「音楽とワイン造り」に関する実験が日本で行われていたなんて、面白いですよね(モンテスでグレゴリオ聖歌による熟成が始まったのはこれよりも後のことです)。伝統とテロワールではヨーロッパに遅れをとっている日本ですが、これからのワインの発展には欠かせないプレーヤーになる……そう思うと誇らしい気持ちになります。

最後に

音楽とワインの関係にはどこかスピリチュアルなムードが漂います。それを科学的なものとして偽ってPRするのは良くないことです。しかし消費者である私たち自身が、造り手のポリシーやワインの個性として受け入れると、ワインの味わいに「ストーリー」という要素が加わってより楽しめるのではないでしょうか。機械的に大量生産されるワインよりも、(科学的にどうかはおいておいて)造り手の想いがこめれたワインの方が親しみやすい……そう思いながら「モンテス・アルファ M」の味わいを噛み締めました。

モンテスのワインには2,000円以下で買えるデイリーシリーズも用意されています。気になる方はぜひ一度手にとってみてくださいね!

 


吉田すだち ワインを愛するイラストレーター

都内在住の、ワインを愛するイラストレーター。日本ソムリエ協会認定 ワインエキスパート。ワインが主役のイラストをSNSで発信中!趣味は都内の美味しいワイン&料理の探索(オススメワイン、レストラン情報募集中)。2匹の愛する猫たちに囲まれながら、猫アレルギーが発覚!?鼻づまりと格闘しつつ、美味しいワインに舌鼓を打つ毎日をおくっている。
【HP】https://yoshidasudachi.com/
【instagram】https://www.instagram.com/yoshidasudachi

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