2022年01月26日

プチ贅沢の極み! あなどるなかれ、5千円のボルドーワインの底力

テレビ朝日系列「芸能人格付けチェック! 2022お正月スペシャル」をご覧になりましたか? 音楽や食、芸術などのカテゴリーごとに出題される “もの” が一流品かそうでないかを、芸能人の方々が見極めてジャッジするというお正月の定番番組です。出題されるカテゴリーのひとつに毎回「ワイン」が用意されています。数百万円の超高級ワインと庶民派ワインを試飲して、どちらが高級品かを当てるという流れ。ワイン好きとしては見逃せないコンテンツです。

今年の超高級ワインはボルドー5大シャトーのひとつ、シャトー・ムートン・ロートシルトの1929年ものでした。解説によると100万円を超えるのだとか……! 対抗馬として用意されたのは5千円程度のボルドーワインです。価格は雲泥の差でもクオリティはシャトー・ムートン・ロートシルトに引けを取らないようで、ワインに詳しい出演者の方も迷う様子が映し出されていました。100万円に劣らない5千円のワイン……銘柄は番組内で明かされず、ワイン通たちがこぞってリサーチを行うも、いまだ未判明とのこと。機会があったらぜひ味わってみたいものです。

しかしながら番組で取り上げられたワインでなくとも、「5千円のボルドーワイン」には掘り出し物がたくさんあります。実は先日もそんなワインに出会ったばかりなのです。このワインがほんっっっとうに最高で、出自も興味深いのでぜひ紹介させてください。

5千円で買える至高のボルドーワイン

ある日ワインショップの棚で見つけた1本のボルドーワイン。価格は5千円ちょっと。デイリーワインに選ぶには少しお高めです。別のプチプラを求めて目線をはずそうとしたその瞬間、目の奥に焼きついたのは「1996」という数字でした。「なにぃぃぃぃ! 26年熟成が……5千円!? 今年26歳になる人の誕生年のボルドーワインが5千円で買えるの!?」驚きのプライシングに圧倒され、気づいたら自宅で抜栓していました。

シャトー・シトラン 1996年

ボルドーワインといえば、1855年にナポレオン3世が発案した「メドック格付け」をはじめ、「サン・テミリオン格付け」や「ソーテルヌ・バルサック格付け」など、様々な格付けで有名です。格付けにランクインするワインはブランド価値が高く、比例してお値段もあがります。

こちらのシャトー・シトランは年代物であるにもかかわらず、まさかの低価格。ということは、どの格付けにも引っかかっていないのかしら……。訝しみつつラベルを読み込むと「CRU BOURGEOIS(クリュ・ブルジョワ)」の文字に目が留まりました。

あまり耳慣れない「クリュ・ブルジョワ」、実はこれもボルドー格付けのひとつです。シャトー・シトランのラベルにはさらに「SUPERIEUR(スペリオール)」とあるので、クリュ・ブルジョワの中でも格の高いワインということになります。ところが最近のクリュ・ブルジョワ認定ワインリストにはシャトー・シトランの名前はありません。1996年もののラベルには書かれているのに……。いったいどういうことなのか、その理由はクリュ・ブルジョワの少しごたごたした歴史にあります。

クリュ・ブルジョワの “ごたごた” ヒストリー

クリュ・ブルジョワはもともと、「メドック格付け」に対抗する形で始まった格付け制度です。公的機関からは認定されず、長きにわたり “非公式な格付け” として運用されていました。しかし1900年代に入り世界的な大恐慌や戦争の影響でシャトーの廃業が相次ぐと、クリュ・ブルジョワのシャトーの数も激減してしまいました。

状況を危惧したフランス農務省は「このままではいかん!」と、制度の見直しにのりだします。そうこうあって2000年、晴れて国公認の正式な格付け制度に昇格。2003年には改めて247のシャトーがクリュ・ブルジョワの格付けとして発表されました。この時、非公式時代から脈々とクリュ・ブルジョワに誇りをもってワイン造りをしてきたシャトーのうち、選出されたシャトーとそうでないシャトーがあったといいます。当然、選ばれなかったシャトーからは不満が噴出。さらにノミネートしていたシャトーの関係者が選考委員会側に含まれており批判が集中。収拾がつかなくなった2007年、格付け制度の撤廃が決まってしまいました

ケチがついてしまったクリュ・ブルジョワ。しかし歴史ある「クリュ・ブルジョワ」の称号を絶やしてはいけない! という想いを持つ人たちによって再び制度再構築が進められました。多くの人が奔走した結果、みごと2020年に格付け復活。249のシャトーが格付けされました。

これで一件落着! と思いたいところですが、そう簡単には丸くおさまりません。2003年の格付けに名を連ねた複数のシャトーが、過去のごたごた騒動ですっかり不信感を抱いてしまい、格付け選考を辞退してしまったのです。彼らはもともと自社のワインに自信とプライドを持っており、格付けがなくてもファンを獲得できると見込んだためです。新たな騒動に巻き込まれるリスクも考慮したのでしょうね。まだ始まったばかりの新生クリュ・ブルジョワ、今後どう成長していくのか、目が離せないトピックです。

シャトー・シトランがリーズナブルなわけ

シャトー・シトランは非公式時代〜2003年の格付けにいたるまで、ずっとクリュ・ブルジョワに名を連ねていたワイナリーです。ファンも多く「グラン・クリュ級だ」と評価されることもしばしば。ところが、2020年発表のクリュ・ブルジョワ格付けシャトーのリストには記載されていません。

2020年 クリュ・ブルジョワ格付けリスト

詳しい事情はわからないのですが、 “新生クリュ・ブルジョワの格付けを辞退したシャトー” のうちの1軒なのではないかと考えています。販売サイトでは「クリュ・ブルジョワ級、最高峰のワイン」と紹介されていることが多く、決して品質が下がったわけではないからです。昔から変わらず一級品である一方でボルドー格付けには指定されておらず、それゆえリーズナブルに手に入るワイン……シャトー・シトランは現在、そういうポジションにいるわけです。

気になるお味は……

先ほどのワインの写真をみて「あれ?」と思った方もいらっしゃると思いますが、今回抜栓するときにコルクがポロっと割れてしまいました。

さすが26年熟成もの……コルクにも年季が入っています。

グラスに注ぐと、光を透かして目に飛び込むオレンジがかったレンガ色が何とも美しく、いつまでも眺めていたくなります。熟成が進んだワインにみられるこのボルドー〜テラコッタのグラデーションは、ワイン好きの心をくすぐりますよね。

鼻に近づけるとふわっと円熟した香りが立ちのぼります。枯葉のようなタバコのような、皮のような。口に含んで一瞬「ややパンチにかける……?」と訝しむのも束の間。飲み進めていくうちにどんどんクセになる味わいです。じわじわと複雑な要素が顔を出し、もう一口、もう一杯と飲む手が止まらなくなります。長距離ランナー的なワインです。こいつはすごい、本当にこれ5千円なのですか……何度も何度も独り言をつぶやきながら、あっという間に飲み干してしまいました。

実はこのワインの育ての親は日本企業です。1987年、「東高ハウス」という日本の会社が買収してワイン造りの体制を整備。大改革を行って、味わいを一級品に押し上げたのだそうです。しかし当時にしては少々アグレッシブなやり方で改革を推し進めた結果、他のシャトーからの嫉妬を買ってしまい、日本人= “よそもの感” もあいまっていざこざに発展。泣く泣く手放すことになったといいます。現在のオーナーはフランス企業ですが、今回紹介した1996年のシャトー・シトランは日本企業オーナー時代に造られたものです。そういった物語もまた、ワインの味わいを引き立てます。

最後に

100万円のムートン・ロートシルトにはかなわないかもしれませんが、5千円と侮ってはいけません。今回紹介したワインのように、ものすごい掘り出し物が眠っている可能性があるからです。シャトー・シトランのように「格付けされていないけれど一級品を生み出すシャトー」が狙い目かもしれません。ぜひシャトーのプロフィールにも目を配って、掘り出し物を発掘してみてください。また、1996年もののボルドーワインが5千円で手に入る機会はあまりないかも知れませんが、もし見つけたら躊躇なく手に取りましょう。

シャトー・シトランの最近のビンテージは3千円台で購入できます。ご興味のある方はチェックしてみてください。最近のものはラベルに「クリュ・ブルジョワ」の記載がありません。そこにも注目してみてくださいね。

Amazonで見る

 


吉田すだち ワインを愛するイラストレーター

都内在住の、ワインを愛するイラストレーター。日本ソムリエ協会認定 ワインエキスパート。ワインが主役のイラストをSNSで発信中!趣味は都内の美味しいワイン&料理の探索(オススメワイン、レストラン情報募集中)。2匹の愛する猫たちに囲まれながら、猫アレルギーが発覚!?鼻づまりと格闘しつつ、美味しいワインに舌鼓を打つ毎日をおくっている。
【HP】https://yoshidasudachi.com/
【instagram】https://www.instagram.com/yoshidasudachi

この記事をSNSでシェアする