
2021年11月10日
皆様こんにちは、インポーターの大野みさきです。
きっかけが「戦争」であることは喜ばしいことではありませんが、最近ウクライナが気になり、興味を抱いたという方も少なくないのではないでしょうか。私もそのうちの一人でした。世界地図上でウクライナがどこにあるかさえ知りませんでしたが、ワインを通じてウクライナを知りたい(知って貰いたい)、ウクライナについて考えたい(考えて貰いたい)という想いは、日に日に強くなりました。
そうして先日はとうとう、ウクライナ人のアンナさんをゲストにお迎えし、『ウクライナの魅力』をInstagramで配信することが叶いました。過日にLIVEでお届けした内容を、今日は皆様とシェアしましょう。
在日歴16年のアンナ ヴァシナさん。昨年の8月から商社、株式会社ヘルムズ(Vino Pioner)で、ウクライナワイン輸入のお仕事に携わっています。
「個人的にワインは大好きですが、ずっとウクライナワインは美味しくないと思っていました」
輸入元らしからぬ、驚きの発言です!
「自分の好みでないと、“美味しくない”と正直に言ってしまう、嘘が付けない性格です。ウクライナ人が美味しいと思わないものを海外の方が手を出すとは思えないですし、また珍しい産地のワインなので、探さないとないです。なので、日本ではじめて美味しいウクライナワインを飲んだ時は、それは、それは衝撃的でした!」。
古くからウクライナでは、ワイン造りが営まわれてきましたが、そもそもワイン文化はなく、むしろ国民はウオッカを飲んできました。下記のデータからも、国内生産量、輸入量、及び消費量はそんなに多くはありません。しかし近年は、ヨーロッパを模して、徐々にワインも楽しまれるようになってきたとのこと。
「地元の人が感心するほど、今のウクライナワインは美味しくなってきているので、もっと沢山の人に飲んでもらいたいと感じました。同国のワインの素晴らしさを皆に知って貰いたい。ウクライナワインのイメージを変えたい!」と彼女は意気込みます。
ウクライナのワイン事情
生産量 21位(990,000hℓ) 日本25位(798,000hℓ)
輸入量
30位(450,000hℓ) 日本11位(2,810,000hℓ)
消費量 72位(3.8L) ポーランド、アルメニア、ペルー、ボツワナと同量 日本76位(L)
※2019年データ
黒海を挟んでトルコの北側、ちょうどヨーロッパとロシアの狭間にあるウクライナは、日本の約2倍の広さの国土を誇ります。人口は出入りが激しく、ざっくり5000万人ぐらい。(※紛争前の人口)
公用語はウクライナ語です。ウクライナ語はロシア語と同様にキリル文字ですが、アクセントはポーランド語に近く、それはイタリア語とスペイン語で会話するような感覚だそうです。
ウクライナ語
Будьмо/ブゥドゥモ(乾杯)
Дякую/デャークユ(ありがとう)
どんどん行きますよ、国民性を聞いてみました。
「寒い国なので、冷たくて怒りっぽく、強面に思われるかもしれませんが、全くそんなことはなく、温かみのある人たちです。おとなしく人見知りで、自分からは近づいたりしないタイプと思いますが、仲良くなったら人想いの方が多いです。」
そう答えるアンナさんは、ハイテンションで、明るく大らかで、ウクライナ人らしくない性格です。どことなく日本人とウクライナ人の気質が似ているからか、日本に住みはじめた当初から、本国と全く違和感がなかったそうです。
美男美女が多いと聞きますが…に関しては「単純に日本人の好みなのではないですか」とアンナさん。アジアとヨーロッパの中間なので、濃くも薄くもなく、日本人ウケする容姿なのではないかと。いやいや、好みでは片付けられない、お話ししているアンナさんも美人さんですよ!
「ウクライナには何でもあります。その中でも食材は一番強いと思います」 と。ウクライナは自給率も高く、石油や天然ガスなどの資源にも恵まれています。ソ連時代には『ソ連の台所』 と呼ばれるほど、大国の国民を賄えるほどの作物を育て、食料庫の役割を担っていました。
チェルノーゼムと言われるミネラル豊富な黒土が、ヨーロッパでは一部のロシアやベラルーシとウクライナ全域に広がっていて、この何でも勝手に育つほど肥沃な大地が、ウクライナの食を支えてきました。また、食料だけでなく、ソ連へのワインの供給国でもありました。1986年のゴルバチョフ元大統領下では、アルコールの消費制限が施行されます。ウクライナ全土の美しいぶどう畑やワイナリーが、それによって燃やされました。
「今まで築いてきた素敵なテロワールが一気にゼロというか、マイナスになりました。全てを失うという、そんな長い歴史があり、そうしてやっと、今ここまで戻ってきたのです」とアンナさんは暗い過去を語ります。
ウクライナのワイン産地は、南部のオデッサ州やヘルソン州、西部のカルパティア山脈の周辺の2ヶ所にあります。かねてからウクライナは戦争が多く、西部はハンガリー領だった時代もありました。そのため、現在でも栽培品種や醸造もハンガリーの影響を受け、白ぶどうのフルミントやチェルセギ(chersegi)は、その土地のテロワールに根付いています。また、同じ品種でも西部と南部とでは、全く違ったキャラクターのワインに仕上がります。西は空気と水がキレイなので、クリアですっきりとしたタイプのワインが多いそう。
一方、南は黒海に面しているので、ジューシーでミネラルと旨味に溢れます。それは南ヨーロッパ産のワインと似ていて、香りも強くボディも重めなのが特徴です。後述の土着品種テルティ・クルックが美味しく育つのも南部とのことです。「南の土壌の塩気とミネラルがなければ、テルティ・クルックはジューシーに仕上がらないです」とアンナさん。ウクライナワインを手にした時、山地は西ですか?南ですか?なんて聞けたら、立派なウクライナワイン通ですね。
それでは待ちに待った「テルティ・クルック」を頂きましょう。
Telti-Kurukはトルコ語で、“キツネの尻尾”の意です。キツネの尻尾のように、曲がった形のぶどうの房に由来しています。ワインからはマスカットやパイナップルなどのフルーティーな香りは一切なく、僅かな熟成香と共に、鉱物や石灰などの石のニュアンスを感じます。極ドライですが、アルコールはボリュームがあり、パンチのある力強い印象。ワインを飲み慣れている方が好きそうなスタイルです。
合わせるお料理は、「カルパッチョやマリネはもちろんのこと、カキフライなどの揚げ物、豚のグリルなどがおすすめです。こってりとした脂をすっきり流すイメージです」と。ミネラルが豊かなもの同士、また脂とも相性が良さそうです。
「お酒が好きな人はこのまま単体でも良いかもしれませんが、何かを口に入れたくなるワインです」
飲兵衛が大好きな、塩辛、酒盗、蛸わさなどの珍味をはじめ、ホタルイカの酢みそ和え、蛸刺し生姜醤油、アクアパッツア、皮目パリパリのチキン(シンプルに塩胡椒)がお供に浮かびました。ウクライナワインは美味しくない!と言っていた人は誰ですか、とても美味しいじゃないですか!次回は西部のワインを試してみようと思います。
参考小売価格 3,080円(税込)
最後までお付き合い頂いた皆様にとってもはやウクライナは、知らない国、知らない人たち、知らない言葉、知らないワインではないはずです。
Vino Pionerはオンラインショップもやっています。「現在は輸入が凍結しているので欠品も多く、果たしてこれがいつまで続くかも誰にもわからないことです。明日何が起きてもおかしくない状況なので、ただひたすら頑張って生き延びて欲しいと願うばかりです」とアンナさん。
ワインの売上の一部は、義援金としてウクライナに送られ、現地をサポートします。家族を心配して時に泣くこともあるというアンナさん。それでも、明るく強く、前向きであり続ける、彼女の姿勢に元気付けられる方も多いのではないでしょうか。私たちの誰かを想う温かい気持ちが、どうかウクライナにも届きますように!!
それでは皆様、ごきげんよう!
■ウクライナワイン輸入元Vino Pioner(ヴィノ ピオーネル)
https://vinopioner.co.jp/
■ウクライナワインのインスタライブは、Instagramのアーカイブでご視聴頂けます。
https://www.instagram.com/tv/CbPoWPNhDsV/?utm_source=ig_web_copy_link
365wine 大野みさき
スロヴェニアワイン輸入元365wine㈱ 代表取締役。
元ANA国際線CAが、7年の在職中にワインに魅せられ渡仏。2014年に帰国し、ひと月でワイン輸入会社を設立。買付け、営業、展示会、ウェブショップ運営、倉庫作業をヒィヒィ言いながらも華麗にこなす。巷ではスロヴェニアワインの第一人者と囁かれている。まんざらでもない。ワイン講師、サクラアワードの審査員も喜んで引き受ける。毎日ワインを飲むのか尋ねられたら、「はい、365日ワインです♡」と返すよう心掛けている。
【ワインショップ】http://www.365wine.co.jp/
【instagram】https://www.instagram.com/365wine/