2022年04月13日

“あんこ”に合うワイン!? 日仏「貴腐ワイン」飲み比べ

三寒四温の不安定な季節もすぎ、すっかり春の暖かい陽気を感じられるようになりました。この季節、無性に食べたくなるものがあります。「あんこ」です! ひな祭りのヨモギ餅、お花見のお団子、端午の節句の草餅……あんこに縁のあるイベントが続くからでしょうか。

あんこにも是非ワインを合わせて楽しんでみたくなるのがワイン好きの性というもの。あんこに合うワインはないものかといろいろ試したところ、ぴったりの1本を見つけました。日本の「貴腐ワイン」です。今回は貴腐ワインの基本をおさえつつ、あんこに合うとっておきの日本の貴腐ワインをご紹介します。また、日本の貴腐ワインは海外のものとどう違うのか……世界三代貴腐ワイン産地のひとつ、フランスのソーテルヌの貴腐ワインと飲み比べてみました。

貴腐ワインとは

貴腐ワインは「貴腐菌(ボトリティス・シネレア菌)」の作用により極めて糖度が高くなったブドウ(=貴腐ブドウ)から造られる “極甘口” ワインです。ほとんど蜂蜜といっていいくらいのとろける甘さなので、糖分を添加しているのでは……と勘違いする人もいるのだとか。実際、ブドウの糖分だけで造られています。

貴腐菌は本来、植物にとって天敵ともいえる病原菌です。地表に蓄積された菌が風で飛ばされ付着すると、花弁、つぼみ、葉、茎などを腐敗させてしまいます(「灰色かび病」と呼ばれます)。しかしいくつかの条件が重なるとあら不思議、ブドウを極上のワインの “元” にしてしまうのです。その条件とは、(1)朝に霧が発生し菌が生育しやすい環境が整い、(2)日中カラっと晴れてブドウが乾燥し、(3)この状態が1ヶ月以上続く、というもの。そうすると、貴腐菌の作用によってブドウの果皮が破壊されつつも日中の気候で乾燥し、果実は腐敗することなく糖度がぎゅっと凝縮されるのです。1ヶ月の間に少しでもこの均衡が崩れると、たちまちただの腐敗状態に陥ってしまいます。貴腐ブドウとはかように繊細で、育てるのが非常に難しい希少なブドウなのです。

日本初の貴腐ワイン

世界三大貴腐ワインといえば、フランスのソーテルヌ、ドイツのトロッケン・ベーレン・アウスレーゼ、ハンガリーのトカイ・アスーです。いずれも貴腐ブドウの生育にとって理想的な条件がそろっている産地で造られます。条件がそろっているとはいえ、これらの産地でも簡単に貴腐ワインを生産できるわけではありません。世界最高峰の貴腐ワインの生産者といわれるシャトー・ディケム(ソーテルヌ)では貴腐ブドウの状態いかんによって、貴腐ワインを造らない年もあるといいます。それくらい、難しいのです。

貴腐ブドウの生育条件や難易度を鑑みると、高温多湿の日本では難しいように思えますが、実際に日本でも貴腐ワインが造られています。

日本初の貴腐ワインを造ったのは「サントリー登美の丘ワイナリー」(山梨県)です。サントリーの公式サイトでは、日本初の貴腐ワイン造りについて、次のように紹介されています。

「日本で初めて貴腐ぶどうが作られたのは1975年のこと。(中略)サントリーの貴腐ワイン造りは偶然から始まりました。それは、当時の考えでは異例のこと。貴腐ぶどうは世界でも限られた地域でしか収穫できない、特に日本のような多湿な地域での貴腐化は起こりにくいと考えられていたからです。」

当の生産者でさえ日本での貴腐ワイン造りは難しいと考えていたところに、偶然が重なって奇跡的に可能性が芽吹いたことがわかります。その後、サントリーをはじめとする革新的なワイナリーが研究に研究を重ね、希少性はかなり高いものの、日本のワイナリーでも貴腐ワインが生産されるようになったのです。

貴腐ワインの生産に適している岡山県!?

ここで「あんこに合う日本の貴腐ワイン」をご紹介します。

Le Noble 19mois (ドメーヌ・テッタ)

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パンダのラベルがなんともキュートな1本。こちらのワイナリーではフラッグシップワインのラベルにパンダをあしらっているのだとか。少し個性的なパンダのイラストがとても印象的です。使われているブドウはシャルドネ。

ドメーヌ・テッタは岡山県にあります。岡山県ってワイン造りのイメージはあまりないかもしれませんが、都道府県別の日本ワイン生産量ランキングでは全国第6位にランクインしており、ワイン造りが盛んな県のひとつです(国税庁「国内製造ワインの概況」平成30年調査分より)。こと貴腐ワインに絞ると、実は全国トップクラスで貴腐ブドウの生育に向いている可能性が高いといえます。

気象庁が発表している「全国都道府県庁所在地等の降水量1mm未満の年間日数」データによると、岡山が堂々の1位に輝いています。つまり、岡山県はよく晴れるということ。「晴れの国岡山」とも呼ばれます。よく晴れ十分な日照時間を確保でき、カラッと乾燥することで状態のいい貴腐ブドウが育つ、それが岡山県! なのかもしれません。ちなみに「降水量1mm未満の年間日数」2位は日本の貴腐ワイン発祥の地、山梨県です。

日仏貴腐ワイン飲み比べ

ドメーヌ・テッタの「Le Noble 19mois」のどこがあんこと合うのか、フランス・ソーテルヌの貴腐ワインと比較しながら考えてみます。飲み比べたのはソーテルヌの名門シャトー・リューセックのセカンドラベルです。使われているブドウはソーヴィニヨン・ブランとセミヨン。

カルム・ド・リューセック 2018(シャトー・リューセック)

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カルム・ド・リューセックにはハチミツのようなふくよかな香りやアプリコットのような甘くフレッシュな果実の香りをよく感じます。口に含むとトロンととろけるような甘味と甘酸っぱい酸味、ミネラル感のある飲みごたえを感じて、これぞ貴腐ワイン! という風格が漂います。このワインに合わせるならやはり、強い塩っけと独特な香りが特徴的なブルーチーズでしょう。ワインの甘さとブルーチーズのしょっぱさが最高のペアリングを演出してくれるのです。

対するドメーヌ・テッタはまったく違う特徴を持っています。どちらかというとシェリーや紹興酒に近い、香ばしい味わいです。わたあめ機にザラメを入れて少し焦げた匂いが立ち上がった時のような、甘く香ばしい香り。貴腐ワインではありますが、甘さは控えめ。お餅を食べる時に砂糖醤油をつけることがあるでしょう、少し砂糖の量を抑え目にしてお醤油の辛さと風味を際立たせた時のような、あの加減に似た甘辛バランスです。

甘さ控えめ(あくまで貴腐ワインにしては、ですが)なので、甘いものに合わせてもくどくなりません。むしろ、甘いものに合わせることで香ばしさが引き立って、至高の味わいになると感じました。洋菓子にブランデーを入れると「完成された感じ」が出ることがありますよね、あれの和菓子バージョンを体験できるイメージです。ドメーヌ・テッタの「Le Noble 19mois」をたい焼きに合わせていただいた時の多幸感といったら……。

下の写真は左がドメーヌ・テッタ、右がカルム・ド・リューセックです。液色からして、ドメーヌ・テッタはあんこに合いそうな雰囲気を醸し出していますよね。

最後に

同じ貴腐ワインでも、生産地域やブドウの品種によって全然個性が異なります。そしてやはり、同郷どうしを合わせるのがマリアージュの鉄則! 日本の貴腐ワインには和菓子がよく合うようです。今回は甘いあんことのマリアージュをご紹介しましたが、しょっぱい系の和食とのペアリングも研究しようと思います。

 


吉田すだち ワインを愛するイラストレーター

都内在住の、ワインを愛するイラストレーター。日本ソムリエ協会認定 ワインエキスパート。ワインが主役のイラストをSNSで発信中!趣味は都内の美味しいワイン&料理の探索(オススメワイン、レストラン情報募集中)。2匹の愛する猫たちに囲まれながら、猫アレルギーが発覚!?鼻づまりと格闘しつつ、美味しいワインに舌鼓を打つ毎日をおくっている。
【HP】https://yoshidasudachi.com/
【instagram】https://www.instagram.com/yoshidasudachi

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