
2021年11月10日
皆様こんにちは、インポーターの大野みさきです。
今回のテーマは、ニューヨークワイン です。
情報、トレンドの最先端、多様性が交差し、躍動感に溢れたニューヨークシティ。近年のニューヨーク州は、ワインの産地としても、注目を浴びています。ニューヨークワイン専門のインポーター「GO-TO
WINE」の後藤芳輝さんにお話を伺いました。
輸入会社を立ち上げる前は、現地日系自動車メーカーでモノ作りの技術、そして空手、文武両道の伝道師として活躍されていました。在住歴14年のベテランニューヨーカーに聞く、ニューヨークワインのあらまし、ニューヨークスタイルのワインの嗜み方をご紹介します。
アメリカワインと言えば、生産量の80%を誇るカルフォルニアワインを想像しますが、ニューヨーク州はワシントン州に次ぐ、全米第3位のワイン産地です。
「ニューヨーク=マンハッタンと大都会のイメージですが、実はマンハッタンの面積はニューヨーク州の1%未満。そこに人口の約40%が集まっています。北海道と九州を合わせたぐらいのこの広大な州には11のAVA(政府公認のワイン用ぶどう栽培地域)があり、なかでも2大産地はフィンガー・レイクスとロングアイランド。
氷河期に氷河の侵食によってできた湖『フィンガー・レイクス』
は西部に位置し、同州の90%のワインを産出します。気候はドイツに似ていて、リースリングなどの冷涼産地の品種を得意とするエリアです。一方でマンハッタンから続く、高級避暑地の
『ロングアイランド』 では、ボルドー気候なので、メルローやカベルネ・フランが栽培されています」
かねてからニューヨーク州は生食用コンコード(Welch‘sウェルチなどジュースの原料)の産地でした。現在は、白ぶどうならリースリング、シャルドネ、ゲヴュルツトラミネール、ピノ・ブラン、ソーヴィニョン・ブラン。黒ぶどうならメルロー、カベルネ・フラン、ピノ・ノワールなどが主力で、ヴィティス・ヴィニフェラとラブルスカの交雑品種も栽培されています。
「80~90年代はロバートパーカーの影響を受け、カルフォルニアの力強い赤ワインが人気でした。一方、冷涼なニューヨ産のワインは果実味が弱く、低アルコールで物足りないと言われてきました。
近年の品質向上も関係していますが、ライトな食が好まれることからも、世界のトレンドはエレガントな冷涼地にフォーカスしています。最近の注目品種はカベルネ・フランです」
ニューヨークでは、カルフォルニアより200年も早い17世紀前半から、入植者らの手によってワインが造られてきました。合衆国建国よりも前のことです。
多雨で寒冷な東海岸では、ヨーロッパ系ぶどうによるワイン造りができないと言われ、コンコードやナイアガラなどのアメリカ系ぶどうが使われていました。
残念なことに、アメリカ系の食用ぶどう“ラブルスカ”はヨーロッパ人に好まれず、またヨーロッパから持ち込まれた“ヴェニフェラ”はフィロキセラと相性が悪く、おまけに大陸の厳しい寒さ。三拍子そろい、1960年代まではニューヨークワインが日の目を見ることはありませんでした。
ところが1950年代末、Dr. Konstantin Frank(ドクター・コンスタンティン・フランク)博士による 「ヴィニフェラ革命」が起こり、光が差します。フランク博士がいなければ今のニューヨークワインは存在しないと言っても過言ではないほど、偉大な功績を残した人物です。
ウクライナ出身のドイツ移民だった彼は、ぶどう栽培の博士として寒冷地のヴィニフェラ種を研究していました。盛り土の技術を開発し、東欧ではその道における第一人者として認められていました。しかし、第二次世界大戦後のドイツ人迫害から逃れるため、1944年にオーストリアに移り、1951年にはアメリカに亡命。言葉も通じない異国で、家族を支えるため、今までVIP待遇だった人が皿洗いから人生を再スタートさせます。
ニューヨーク州でのヴィニフェラ種の栽培は不可能とされてきた時代だったので、「無理だ!私らは何百年も研究してきたのにバカじゃないか」と博士は非難されました。しかし「絶対にできる!」と強い信念を持ち、台木、クローン、ぶどう品種、補木、土壌の6000パターンの組み合わせに挑み、とうとう寒冷地でのヴィニフェラの栽培に成功。歴史が動きました。ニューヨークワインの幕開けです!
ニューヨークで押さえておきたい造り手のリースリングをテイスティングしました。
1962年、前述のフランク博士によってキューカ湖畔に設立されたワイナリー「ドクター・コンスタンティン・フランク・ヴィニフェラ・ワイン・セラーズ(現在は4代目のメーガンフランクが当主)」の“サーモン・ラン リースリング2019”です。
Dr.Konstantin Frank Vinifera Wine Cellars サーモン・ランリースリング2019 参考小売価格 税込3,080円
エチケットにはサーモンないし、フィンガー・レイクスを象徴する魚“ニジマス”が描かれています。ニジマスはキレイな水にしか生息しないので、それを皆で守っていこう!との想いが込められています。
ワインを一言で表現すると“繊細”です。ジューシーでフレッシュな印象。白桃、カリン、柑橘類の皮の内側のビターな部分などの、控えめな北の香りが満載です。
「ドクター・フランクの中でもエントリーワインなので、フレッシュ&フルーティで残糖のあるタイプです。酸もキレイに感じられるので決して甘過ぎず、とてもバランスの取れたワインです。ワイン初心者の方にもウケが良いワイン」と後藤さんは言います。
そして面白いのが、アフターにかけてのボリューム感&膨らみ。大器晩成、デクレッシェンド(だんだん強く)の如く、クライマックスは終盤にやって来ます。また、若々しい春をイメージする、柔らかなこもれびのようなワイン。苦みを伴った春食材とも相性がよさそうです。
「リースリングなので食事とも合わせやすく、和食にはぴったりです。サーモンと合うのかもよく質問されますが、お酢を使ったサーモンマリネは良いですね、また鮭のちゃんちゃん焼きとも相性が良いと聞いています」
ドイツ、フランス(アルザス)、ニュージーランドとは、また違ったリースリング。しっかりと記憶に刻ませて頂きました。
「ニューヨークの人は自由にワインを楽しみます。日本のように『ちょっとワインわからないです』といった謙遜はありません。夜だけでなく様々なシチュエーションで、それこそ週末はもちろんのこと、明るい時間からレストランでも、気軽に飲んだりしています。移民の街なので、ワイン文化が根付いていると言うより、ヨーロッパの文化を適宜取り入れている感じです」
フィンガー・レイクスの古き良きアメリカ文化とは対照的に、マンハッタンから続く高級避暑地のロングアイランドでは、ハイソ向けのスタイリッシュなワイン文化が形成されています。
「ロングアイランドはニューヨーク州のサマーリゾートになっており、マンハッタンではロゼワインが大ブームです。富裕層がプロヴァンスにバケーションに行った際、夏はやっぱりロゼだよね~みたいな感じで本国に帰ってからも飲むようになったのがはじまりです」
かつては夏季限定だったロゼワインですが、今では通年ワインショップのレジ前に大量陳列されるほどの人気ぶり!10年あまり続くムーブメントで、消費量も南仏のプロヴァンスの次に多いのだとか。そんなワインの消費を支えているのが、30代のミレニアル世代です。お偉いさんの評価や格付けを重視する世代とは違って、今の若者は身近なインフルエンサーに信頼を置きます。ワインに偏見もなく、むしろ格付けはダサいと捉えるそうです。
「SNSに皆が知っているワインを投稿しても、格好よくないじゃないですか。ニューヨークでは誰も知らないものを良しとします。なので、Instagramで見映えもするロゼワインは、ミレニアル世代の間でもとても流行っています」
SDGsやエシカルに対する消費者の高い意識も、ニューヨークワインの消費を後押ししています。
「2008年のリーマンショック以降、ニューヨークの人たちの消費傾向が変わりました。私が住んでいた10年前は、地元のスーパーでもオーガニックのセクションはありましたが、西海岸産の農産物に頼っていたのでローカルのセクションはありませんでした。ところが今や、ファーマーズマーケットなどの地産地消が広まり、すっかりローカルがスタンダードになりました」
果物ひとつを取っても、新鮮、オーガニック、完熟の最高のものが手に入るのですから、消費者にとっても、生産者にとっても、地球環境にとっても、地産地消は良いこと尽くしです。
食にシビアなニューヨークの人にとって、ローカルワイナリーは造り手の顔が見えるという安心感があります。実際にワインツーリズムで消費者が訪問するので、生産者も常に見られている意識があり、より良いものを生み出そうと努力する。そして、ニューヨークでは更に美味しいワインが飲めるという、無限のサステナブルが想像できました。
ニューヨークのこれから成長する新しい歴史に、大きな可能性を感じました。流行の発信地から、ニューヨークワイン、ロゼワインが日本を湧かせる日もそう遠くはないはずです。
Drink New York!それでは皆様、ごきげんよう。
365wine 大野みさき
スロヴェニアワイン輸入元365wine㈱ 代表取締役。
元ANA国際線CAが、7年の在職中にワインに魅せられ渡仏。2014年に帰国し、ひと月でワイン輸入会社を設立。買付け、営業、展示会、ウェブショップ運営、倉庫作業をヒィヒィ言いながらも華麗にこなす。巷ではスロヴェニアワインの第一人者と囁かれている。まんざらでもない。ワイン講師、サクラアワードの審査員も喜んで引き受ける。毎日ワインを飲むのか尋ねられたら、「はい、365日ワインです♡」と返すよう心掛けている。
【ワインショップ】http://www.365wine.co.jp/
【instagram】https://www.instagram.com/365wine/