
2021年02月23日
連休の空気に乗ってはしゃぎすぎたせいか、久しぶりの仕事にはりきり過ぎたせいか……ゴールデンウィークが明けたとたん、疲れがどっと噴出して調子が狂ってしまいました。俗にいう「五月病」というやつでしょうか。このままではいかん! と危機感を抱き、英気を養うために栄養価の高いものを摂取しようと、うなぎ弁当を買いに走りました。近所のうなぎ料理店には長蛇の列。きっとみんな、5月の疲れを癒しに来ているのでしょう。うなぎ……それは日本古来のスタミナ食材。うなぎ……それは身の心も高めてくれるプチ贅沢なご馳走。
温かいうなぎ弁当を抱えほくほくした気持ちで家路を急いでいる時、ふと家の冷蔵庫で眠っている1本のワインを思い出しました。モンテネグロの赤ワインです。このワイン、“うなぎに合うワイン” として浅草のうなぎ料理専門店で提供されているとのこと 。そんな紹介をされたら気にならないわけがありません。迷わず購入してストックしていたのでした。いつ飲むかって、それはうなぎを食べる時。そして右手にはうなぎ弁当。時は来たり。
しかし、モンテネグロのワインってめずらしくないですか? 最近は東ヨーロッパのワインを目にする機会も増えましたが、モンテネグロのワインは初めてです。
モンテネグロはアドリア海を挟んでイタリアの向かい側(東側)にある、バルカン半島の小国です。2006年に独立を宣言、2007年に正式に国名が「モンテネグロ」に変更されました。土地には深く複雑な歴史がありますが、国自体はまだ新しいわけですね。面積は13,812平方キロメートルで、ちょうど福島県や長野県と同じくらいの大きさ。2020年時点の人口は62万人。福島県の人口は185万人、長野県の人口は205万人(いずれも2019年時点)なので、モンテネグロは人口密度の低いとてもゆったりとした国だとわかります。
美しい景観の観光地が多く、「アドリア海の秘宝」と呼ばれています。特に人気なのは、1979年に世界遺産に登録された街「コトル」。家々の赤い屋根と紺碧の海のコントラストがたまりません。まるでジブリ映画「魔女の宅急便」や「紅の豚」の世界です。ちなみに「モンテネグロ」はイタリア語で、「黒い山」という意味。イタリア側から海ごしに眺めると木が生い茂った山々が黒く見えたから……というのが国名の由来です。
ワイン造りの歴史も長く、特にヨーロッパでは高い評価を受けています。海を挟んでお隣のイタリアと気候がよく似ており、ワイン用ブドウの栽培にとても適しているようです。先ほど書いた通り人口密度の低いのどかな場所なので、広大な面積のブドウ畑を確保できています。そこでは「ヴラナッツ(Vranac)」や「クリスタッチ(Krstac)」といった土着品種を中心に、美味しいワインの原料となるジューシーなブドウがすくすくと育まれています。
我が家でストックしていたモンテネグロの赤ワインはこちらです。
リポヴァッツ(Lipovac)というのがワイナリー名、「コンセプト」がワインの名前です。ラベルにも書かれているように、土着品種「ヴラナッツ(Vranac)」を100%使用した赤ワインです。ヴラナッツからは辛口でドライな赤ワインが造られるといわれますが、こちらのワインはとってもフルーティ! 香りの印象からはサンジョヴェーゼっぽさを感じます。気候がイタリアと似ている……という前情報がそうさせるのでしょうか。口に含むとサクランボのような酸味とほんのりとした甘みが広がり、後味には心地よい苦みが残ります。オーク樽で12ヶ月以上熟成されており、シナモンのようなカカオのような香ばしい木のニュアンスも感じます。
なるほど、これは甘辛く香ばしいうなぎの蒲焼に合いそうだ。ということで実食。
甘辛タレで焼き上げたふっくらジューシーなうなぎはやっぱりご馳走です。少し焦げて苦味のある部分がまた、たまらん。予想どおり、ワインの香ばしさともよく合います。また、タレの甘味と赤ワインの酸味が融合して、新感覚です。お米とワインは合わせにくいといわれますが、蒲焼のタレが絡んだ白米とリポヴァッツ「コンセプト」は絶妙にマッチして、ひとつ常識が打ち破られました。試す価値ありです。
うなぎ弁当は美味しいことに間違いないものの、毎回 “最初の一口” がピークで、二口目以降に最初の一口を超える感動を味わうことは難しい……というのが持論です。でもこのワインがあれば、箸を運ぶごとにリセットされ、毎回新たな感動を味わえる。このワインの酸味はそういう酸味だと思いました。
ラベルに書かれている記号「Ⱌ」は「グラゴル文字」のアルファベットです。グラゴル文字はスラヴ系言語で使われる最古の文字といわれています。こちらのワイナリーではスラヴ人の歴史や文化に敬意を表すために、ラベルにグラゴル文字をあしらっているそう。遠い東欧の文化と日本の食文化が融合して日本人の5月の疲れを癒すだなんて、不思議な巡り合わせですね。これ発見した人、天才じゃない?
ということで、そんな天才……もとい、ワインの販売情報のご紹介です。
直輸入のスペインワインの通販をしているショップ。「鰻 駒形 前川」のうなぎに合うワインを探すことから始まったのだとか。うなぎとワインのペアリングのプロ……ということでしょうか。ショップの歴史に興味がそそられます。
東京を代表する老舗うなぎ料理専門店。もともと今回のワインはこちらのお店で提供されていると聞き、興味を持ったのでした。隅田川の隣、スカイツリーを眺めながらうなぎをいただくなんて、贅沢ですね。お店にも足を運ぼうと思います。
5月の疲れにもいいけれど、うなぎといえばやっぱり「土用の丑の日」ですよね。
「土用の丑の日」って、実は年に何回もあるって知ってました?「土用」とは立春(2月上旬)、立夏(5月上旬)、立秋(8月上旬)、立冬(11月上旬)の直前18日をさす言葉。「丑の日」は昔の日にちの数え方(現在の「月・火・水・木……」のように昔は十二支になぞらえて「子・丑・寅・卯……」と数えていた)。つまり「土用の丑の日」とは「土用の期間にある丑の日」という意味です。なので年に複数回訪れます。
今年2022年の夏の「土用の丑の日」は7月23日と8月4日。夏バテで疲れた体を癒すのにうなぎは最適な食材です。エネルギー代謝をたすけるビタミンB1が豊富に含まれていますからね。そこにポリフェノールたっぷりのモンテネグロの赤ワインを合わせたら、もう百人力! 今年の「土用の丑の日」にはぜひ、うなぎとモンテネグロワインをご用意してはいかがでしょうか。
吉田すだち ワインを愛するイラストレーター
都内在住の、ワインを愛するイラストレーター。日本ソムリエ協会認定
ワインエキスパート。ワインが主役のイラストをSNSで発信中!趣味は都内の美味しいワイン&料理の探索(オススメワイン、レストラン情報募集中)。2匹の愛する猫たちに囲まれながら、猫アレルギーが発覚!?鼻づまりと格闘しつつ、美味しいワインに舌鼓を打つ毎日をおくっている。
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