
2020年01月08日
憧れのワインってありますよね。ボルドー五大シャトーやロマネ・コンティといったフランスの超高級赤ワインたち。ワイン史に残る事件「パリスの審判」で一躍その名を轟かせたスタッグス・リープ・ワイン・セラーズなどのカリフォルニアワインたち。たいていの場合、憧れのワイン っていうのは誰もが知る銘柄なのに実際に手にするチャンスはめったにない……実は都市伝説なんじゃないかと勘ぐりたくなるような希少価値の高いワインです。もちろん海外のワインだけではなく、日本ワインにもそんな銘柄があります。
実は先日、“個人的憧れ日本ワイン” の1本に巡り会うことができました。生産本数が限られているのにファンが多く、手に入れるには争奪戦を勝ち抜かなくてはならない激レアワインです。そしてそのワインを持ち込んで、約2年ぶりのBYOを楽しんできました。いいワインを手にいれてお店に持ち込み、プロの料理とマリアージュさせるという贅沢……! わたしは今、それを味わえる生活が戻ってきた幸せを噛み締めています。
今回は “個人的憧れ日本ワイン” の推しポイントを紹介しつつ、久しぶりのBYOレポートをお届けします。
まずは主役のワインから。ゲットしたのは、山梨県小淵沢町のワイナリー「ドメーヌ・ミエ・イケノ」のワインです。ここ数年ミエ・イケノのワインを探し求めて都内とネット空間をさまよったものの、どのお店もSOLD OUT。悔しい思いを押し殺して過ごしていました。しかし今年に入り、「八ヶ岳のリゾートホテル「リゾナーレ八ヶ岳」内のショップでミエ・イケノが買えるらしい」という情報をつかんだのです。憧れのミエ・イケノを手にするチャンス……逃す手は……ない……!
というわけで、買ってきました。メルロー種の赤ワイン。
八ヶ岳の稜線をイメージしてカットされたラベル。中央に座るのは気品漂う一匹の猫。なんてスタイリッシュなのでしょう。ドメーヌ・ミエ・イケノの運営会社は「レ・パ・ドゥ・シャ(フランス語でLes pas du chat)」といって、「猫の足跡」という意味です。醸造家の池野さんが山梨県八ヶ岳の地を初めて訪れたとき、あたり一面猫の足跡がたくさん残っていたことにちなんで名付けられたのだそう。ラベルの猫は、つまり足跡の猫なのですね。猫好きの心もくすぐられます。
ミエ・イケノは日本で初めて、重力を利用した醸造手法「グラビティ・フロー・システム」を採用したワイナリーです。「グラビティ・フロー」といえば、以前イタリアのフランチャコルタ「カ・デル・ボスコ」のオンラインワイナリーツアーに参加した時に学びました(詳細はこちら)。カ・デル・ボスコでは専用エレベーターでワインを運搬していましたが、ミエ・イケノでは醸造施設を地下2階〜地上1階にわけ、高低差を利用して樽詰めやボトリングを行っています。そうすることでブドウへの負荷を抑え、良さを最大限引き出せるのだとか。徹底的にブドウに寄り添い、八ヶ岳の自然を存分に味わえるワインに仕上がっています。これが、ミエ・イケノを推す一番の理由です。
「ミエイケノ メルロー 2019」の飲み頃は醸造から3〜15年後とのこと。つまり、今年2022年は飲み頃でありながら最もフレッシュな状態を堪能できるタイミングです。レアワインを手に入れると “もったいない精神” がはたらいて、つい寝かせておきがちです。しかし、やはりワインは味わってこそ真価を発揮するもの。ここはひとつ、長年の “憧れワイン” に敬意を表し、思い切って飲むことにしました。
BYOをするならお店選びが重要。今回の理想はミエ・イケノの良さを引き出すために、和の食材を使いながら西洋生まれのブドウ「メルロー種」の味わいに調和する料理を楽しめるお店。そんなわがままを叶えてくれるお店が、東京の神保町駅近くにありました。
オフィス街の真ん中にありながら都会の喧騒を感じさせない、シックで落ち着いた雰囲気のお店です。日本各地の新鮮な食材を使ったフレンチは、日本人の舌に合う絶妙な味付けで、特別感を堪能できます。
洗練された温かい雰囲気の店内に、どことなく和の侘び寂びを感じさせるテーブルセット。紫色がアクセントになっているパッケージには、ラベンダーの香りのおしぼりが入っていました。持論ですが「おしぼりにこだわるお店にハズレなし」です。期待が膨らみます。
こちらが本日のお品書き。
ワインを愛する身ではありますが、量はそんなに飲めません。アセトアルデヒド分解酵素の量が少ないのは、日本人の悲しいサガです。BYOする時に欲張って何本も持ち込むと飲みきれずに後悔することになるので、割り切って飲みたいワイン1〜2本に絞ります(もちろん人数によりますが)。だからたいてい、乾杯はお店おすすめのスパークリングをバイ・ザ・グラスでオーダーします。
今回注いでもらったのは、ブラン・ド・ノワールのシャンパーニュ! 銘柄は「マリー・ドゥメ」。ポール・マッカートニーをはじめとする英国セレブたち御用達なのだとか。酵母の香りがふわっと漂い、食欲ゲージが一気にマックスに。前半二品をシャンパーニュで、後半二品を持ち込みワインで楽しむイメージです。
一品目、炙った真鯛と野菜のカルパッチョ。
真鯛の焦げた風味が、しっかりした骨格のシャンパーニュによく合います。酢飯にのせたらそのまま極上のお寿司になりそうな、とろける食感がたまりません。
おかわり自由のパンがこれまた絶品。
湯種製法(生地に湯を加えてこねる製法)でこしらえたもっちり食感の自家製パンです。切れ目にバターを挟んで口に運ぶと、もう至福。シャンパーニュとの相性も抜群です。ここだけの話、このパンを食べるためだけにこのお店に通いたいとさえ思いました。
二品目はカプレーゼ。
長野県産のモッツァレラチーズ、フランスの生ハム、甘夏の三者が織りなす美味しい三角関係。チーズからは豊かなミルクの香りがただよい、生ハムの塩味と融合して美味! シャンパーニュが進みます。余談ですが、最近トマトの代わりに柑橘類を使ったカプレーゼを目にすることが増えました。個人的に、世界中の全カプレーゼに柑橘類が使われればいいのに……と思うくらい、柑橘類のカプレーゼを愛しています。
二品目の途中で持ち込みワインを用意。ミエ・イケノの御出ましです。
色合いは上品なピノ・ノワールのようなルビー色。 黒胡椒を思わせるスパイシーな香りと甘いスミレの花の香り。口に含むと酸味と甘味のバランスが良く、ほどよいタンニン(渋み)が舌を刺激します。梅のようなプラムのような、ツンとした特徴的な味わいです。後味にはカスタードクリームのような風味を感じます。普通のメルローとは全然違う。これはメルローではなく、ミエ・イケノという品種なのだ。そう主張したくなる、個性的で印象深い香りと味わいです。わぁ、楽しい。
三品目、焼いた鰆(さわら)と濃厚なブイヤベース。
乗っているのは駿河湾の桜エビ。ソースに感じる魚の濃い〜出汁が、ミエ・イケノの風味と調和しています。かと思いきや、シンプルな鰆の味わいにも寄り添うから面白い。生臭さを感じることもありません。日本の赤ワインは魚料理にもあわせやすいとはいいますが、まさにです。
四品目、ローストしたお肉。
もうとにかく柔らかい……! ナイフがするするする〜っと入っていきます。あれ、これケーキか何かだったかしら? ってくらい。でも安心してください、口に入れるとしっかりお肉です。旨味がじゅわ〜と溶け出します。ソースにもお肉の出汁を使っているそうで、まるで旨味の大感謝祭。塩味やスパイスでごまかされることなく、素材の味をストレートに楽しめる逸品です。
ミエ・イケノとも好相性。お肉の味付けがシンプルだからこそ、ワインの個性を覆い隠すことなく寄り添ってくれる……そんな印象を受けました。ガツンとしたお肉に力強い赤ワインの組み合わせも好きですが、丁寧に調理されたお肉と繊細な個性が光る赤ワインの組み合わせもまた素晴らしい。そんな発見のあるペアリングとなりました。
シメはメロンとマスカルポーネムースのデザート。御口直しにちょうどいい優しい甘味でフィニッシュです。
もしワインが余ったら無理に飲み干す必要はありません。「飲み切らなきゃ」というプレッシャーが意外とBYOのハードルになることがあるんですよね。でも、大丈夫です。飲みきれないという場合はこうして栓をして、お店の方に「味見をどうぞ」と声をかけて帰ればOK。もちろん、飲める人は最後の1滴まで楽しんじゃってくださいね。
憧れの日本ワイン、そして久しぶりのBYO、これにてご馳走様でした。あぁ、お腹いっぱい。
前々から思っていましたが、今回のBYOで再確認したことがあります。それは、「BYOには日本ワインがぴったり」ということ。今回は赤ワインを持ち込んだわけですが、カルパッチョ、焼き魚、お肉料理、全てにちゃんと寄り添いちゃんとマリアージュを楽しめました。日本ワインはどんな料理にも寄り添う、懐の深さが魅力なんだと思うんです。つまりボトルワインをじっくり楽しむBYOでは、様々なコースメニューと組み合わせることができる柔軟性抜群な日本ワインがピッタリというわけです。神保町の素敵なフレンチレストランで、改めて日本ワインの魅力を体感することとなったのでした。
吉田すだち ワインを愛するイラストレーター
都内在住の、ワインを愛するイラストレーター。日本ソムリエ協会認定
ワインエキスパート。ワインが主役のイラストをSNSで発信中!趣味は都内の美味しいワイン&料理の探索(オススメワイン、レストラン情報募集中)。2匹の愛する猫たちに囲まれながら、猫アレルギーが発覚!?鼻づまりと格闘しつつ、美味しいワインに舌鼓を打つ毎日をおくっている。
【HP】https://yoshidasudachi.com/
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