2022年07月06日

サンテミリオンの格付け辞退

皆様、こんにちは。インポーターの大野みさきです。格付けが無縁で平和なポムロールとは打って変わって、現在のサンテミリオンは、大いに荒れています。2021年の夏にプルミエ・グラン・クリュ・クラッセA(1er GCC-A)のトップ2シャトーが、次回の格付けから退くというニュースが流れました。瞬く間にワイン界に衝撃が走りました。それを機に続々と撤退するワイナリーが出現し、今もなお世間を騒がせています。今回はサンテミリオンの格付けをおさらいし、今後の展開についてお話しましょう。

メドックの格付けは1855年からはじまりました。その100年遅れの1955年よりサンテミリオンでも格付けがスタートしました。サンテミリオンの格付けは、長きに渡り生産者たちのモチベーションツールとして機能し、AOCサンテミリオンの発展、そして世界へ促進することができました。おおよそ格付けは10年ごとに見直されてきました。過去10年間ぐらいのワインをブラインドテイスティングして選出します。畑やワインそのものだけでなく、街中が世界遺産のサンテミリオンで、どれだけツーリズムに力を入れているか。例えばワイナリーの訪問のしやすさ、お城(シャトー)の美観なども評価の対象です。そう言えば、パヴィマッカンで、「アンジェルスはベルでお迎えしてくれるわよ」と言われ、到着して早々、屋根に設置の鐘で“君が代”を演奏してくれました。訪問客の国歌でお出迎えするという粋な演出に、ファンは急増すること間違いなく、そんな私もイチコロでした。

■サンテミリオンの格付け(2012年)■

▶Premier Grand Cru Classé A  / プルミエ・グラン・クリュ・クラッセA

4ワイナリー
Château Ausone
Château Cheval Blanc
Château Pavie ★
Château Angélus ★
2012年昇格

▶Premier Grand Cru Classé B / プルミエ・グラン・クリュ・クラッセB

14ワイナリー
Château Beau-Séjour Bécot
Château Beauséjour (Héritiers Duffau-Lagarrosse)
Château Bélair-Monange
Château Canon
Château Canon la Gaffelière
Clos Fourtet
Château Figeac
Château la Gaffelière
La Mondotte
Château Larcis Ducasse
Château Pavie Macquin
Château Trolong Mondot
Château Trottevieille
Château Valandraud

▶Grand Cru Classé  / グラン・クリュ・クラッセ

64ワイナリー
Château Balestard la Tonnelle
Château Barde-Haut
Château Bellefont Belcier
Château Bellevue
Château Berliquet
Château Cadet-Bon
Château Capdemourlin
Château Chauvin
Château Clos de Sarpe
Château Corbin
Château Côte de Baleau
Château Dassault
Château Destieux
Château Faugères
Château Faurie de Souchard
Château Fleur Cardinale
Château Fombrauge
Château Fonplégade
Château Fonroque
Château Franc Mayne
Château Grand Corbin
Château Grand Corbin-Despagne
Château Grand Mayne
Château Grand-Pontet
Château Guadet
Château Haut-Sarpe
Château Jean Faure
Château La Fleur Morange
Château Laniote
Château Larmande
Château Laroque
Château Laroze
Château Le Prieuré
Château Monbousquet
Château Moulin du Cadet
Château Pavie Decesse
Château Peby Faugères
Château Petit Faurie de Soutard
Château Quinault l’Enclos
Château Ripeau
Château Rochebelle
Château Saint-Georges-Cote-Pavie
Château Sansonnet
Château Soutard
Château Tertre Daugay
Château Villemaurine
Château Yon-Figeac
Château de Ferrand
Château de Pressac
Château l’Arrosée
Château la Clotte
Château la Commanderie
Château la Couspaude
Château la Dominique
Château la Marzelle
Château la Serre
Château la Tour Figeac
Château le Chatelet
Château les Grandes Murailles
Clos Saint-Martin
Clos de l’Oratoire
Clos des Jacobins
Clos la Madeleine
Couvent des Jacobins

サンテミリオン格付け年表①~⑥

1955年 国立アペラシオン研究所(INAO)により、格付け制定&認定

1969

1984年(1986年発表) サンテミリオンの区切り方が改正され、AOC Saint-Emilion AOC Saint-Emilion Grand Cruが定まる。後者から、プルミエ・グラン・クリュ・クラッセとグラン・クリュ・クラッセが選ばれるシステムに決定。

1996年 13のプルミエ・グラン・クリュ・クラッセと55のグラン・クリュ・クラッセが認定。

2006年 15のプルミエ・グラン・クリュ・クラッセが認定。公正性を巡って訴訟に発展。2011年まで暫定的に1996年の格付けを復活させ、2006年の昇格シャトーを加えることで当局とワイナリーの間で和解。外部委託によって偏りのない専門家を審査員に起用。透明性の向上を図る。

201296日 フランスの農業消費者省のサポートを受け、18のプルミエ・グラン・クリュ・クラッセと64のグラン・クリュ・クラッセが認定。

格付け撤退

そんな歴史のある格付けから、離脱するワイナリーが表れます。そもそもの発端は、20217月に、オーゾンヌとシュヴァル・ブランが、納得のいかない審査基準(ワインと関係のない事柄が重要な評価ポイントとなっている)を理由に、撤退を明かしたことからはじまりました。(同時にシャトー・キノー・ランクロも然り)その影響を受けた半年後の202215日に、アンジェリュスが格付けランキングへの応募を取り下げました。現在のステータスを放棄し、それ以上の申請を行わないことを表明しました。発表では、「かつて進歩の源であったサンテミリオンの格付けも、対立と不安定さをもたらすものへ。この状況を遺憾に思い2022年の格付けから離脱します」と 警鐘を鳴らして去ります。皮肉にもアンジェリュスらしいです。

格付け撤退を表明したワイナリー

2021年7月 オーゾンヌ
2021年7月 シュヴァル・ブラン
2021年7月 シャトー・キノー・ランクロ
2022年1月 シャトー・アンジェリュス
2022年6月 シャトー・クロック・ミショット
2022年6月 シャトー・ラ・ガフリエール

アンジェリュスの離脱

アンジェリュスは1996年にはグラン・クリュ・クラッセから、プルミエ・グラン・クリュ・クラッセBに昇格しました。その次の格付けである2012年には、パヴィと並んで、プルミエ・グラン・クリュ・クラッセBからAに昇格するという、シンデレラストーリーさながらの道を歩みます。華々しくトップに君臨して10年で、その座を明け渡すというのですから驚きを隠せません。
ワシントンポストのワインコラムニストは、「アンジェリュスは格付けによって、名声の面で最も多くの利益を得た」と述べています。確かに恩恵は受けています。加えて格付けの昇降は、ワイン価格に影響を与えます。2011年プリムール売出し価格においては、アンジェリュスが30%上昇、パヴィが58%上昇しています。また昇格によって地価も高騰しました。

アンジェリュスの離脱を受け、シャトー・クロック・ミショットも格付の脱退を発表しました。同ワイナリーは1996年に格付けから降格。2006年、2012年も昇格はなく、そこでINAOを相手取って、格付けの無効で訴訟を起こします。しかし、ボルドー裁判所は訴えを却下しました。

アンジェリュスの離脱も、終わりの見えない一連の訴訟と言われています。2006年と2012年の格付けをめぐる法廷闘争は、202111月に判決を上訴しないことで決着しています。格付けの利害関係は多くの裁判を引き起こし、最近では20222月、新たに取得した土地が含まれていて申請を却下された、シャトー・ツアーセントクリストフとクロワドゥラブリーの訴えが通るなど、法的な論争が絶えません。

アンジェリュスは2年以上の検討を重ね、法廷での争いではなく、最高のワインを造ることにエネルギーを使いたいと思い、「今までと同様に卓越した道を追求し続け、8世代に渡って取り組んできたワイン造りに専念します。長期熟成が可能で、AOC、テロワール、ヴィンテージを反映した素晴らしいワインを造ります。格付けから抜けてもアンジェリュスのワインは残ります。サンテミリオン、ボルドーの成長を全ての大陸と世界の四隅で積極的に推進していきます」とアンジェリュスのオーナーは声明を出しています。実際、アンジェリュスは所有畑を52haに拡大し、セラーも新設しました。ワイン造りへの意気込みが感じられます。

格付け

サンテミリオンの格付けに関して、兼ねてより「利害関係のある人々が関与してきたので、ブランドを売るためのシステムとなっている」あるいは、「ワインであるが故、長期的な視野が求められ10年の更新では短過ぎる」など疑問の声が上がっています。また、トップ抜けに関しても、「他のワイナリーが追随すれば、格付けのシステムは崩壊するのではないだろうか」「いやそれでも由緒あるシステムだからなくなるわけがない」「格付けよりもブランド、品質、一貫性、それらを踏まえた結果としての評価に焦点を当てるべきだ」「Aグループが拡大されたら、格付けトップが得られる価格設定においての利益が見込めなくなる」「離脱したら市場価格とプロファイルをサポートするのに役立つ触媒を失うのではないか」と世界中で賛否両論が繰り広げられています。

そもそも格付けの申請要件を満たすには、膨大な労力とコストがかかります。書類の作成と提出も大変な作業です。しかも、観光客の受け入れ態勢だったり、ワイナリーとレストランやオーベルジュを兼業するビジネスモデルであったり、奇しくもワインそのものだけでジャッジされないのです。さらに今回の評価基準には、SNSの活用も加わると聞いています。私たちが飲みたいのは、格付けの“ある/なし”ではなく、アンジェリュスのメルロー、シュヴァル・ブランのカベルネフランです。そのためワイナリーがワイン造りと言う本業に立ち返るのは、最良な選択だと個人的には感じています。格付けを抜けてもアンジェリュスはアンジェリュスのままだと信じています。

最後に

最近の若者たちは、金賞でも評論家の高得点でも、はたまた格付けでもなく、自分の身近なインフルエンサーが選んでいるものを参考にする傾向があります。そんな時勢を考えると伝統とばかり、言っていられないような気もします。

サンテミリオンのワイン評議会は、相次ぐアプライの取り下げを遺憾に思いながらも、2022年の格付けを推進すると発表しています。(しなければ、訴訟の嵐が想定されるため)格付けが発表されるのが今年の9月です。この波乱は幕開けに過ぎないように感じます。パヴィが唯一のプルミエ・グラン・クリュ・クラッセAとなった今、これからどのような展開を見せるのか、去る者がいる一方で、フィジャック、カノン、トロロン・モンド、ベレール・モナンジュなど、1er GCC-Aへの昇格を目指しているワイナリーもいます。この行く末は固唾を飲んで見守りたいと思います。

それでは皆様、ごきげんよう。


365wine 大野みさき

ANA国際線CA7年の在職中にワインに魅せられ、その後は渡仏しワインの勉強をする。2014年に帰国し、翌月にワイン輸入会社365wine株式会社を設立。365(毎日)ワインを楽しんでもらいたいという想いからの社名。スロヴェニアワイン専門のインポーター。現在はママさんスタッフを含め3名で、買い付けから輸入販売、全国の業務店営業やイベントで、スロヴェニアの魅力を各地に広める活動をする。「貴方と大切な方の毎日を笑顔にします!」をモットーに、一緒に働いてくれる仲間を募集中!
【ワインショップ】http://www.365wine.co.jp/
【instagram】https://www.instagram.com/365wine/

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