
2021年02月23日
ヨー・ナポット! 今回はハンガリーワインのお話です。
ハンガリーは7つの国と国境を接する中央ヨーロッパの小さな国。国土面積は日本の1/4ほど、人口は日本の1/10ほどです。首都ブダペストは世界で最も美しい夜景を堪能できると評判で、世界中から観光客が訪れます。優美な景観は「ドナウの真珠」と称され、1987年に世界遺産に登録されました。優美なのは首都の街だけではありません。音楽も食も、そしてワインも……さまざまなものが実に優美で、私たちの心を魅了します。
ハンガリーワインの代表格はやはり、「世界三大貴腐ワイン」に数えられる極甘口ワイン「トカイ・アスー」ではないでしょうか。「トカイ・アスー」の造り方は、単純に “貴腐ブドウ” を発酵させるだけではありません。貴腐菌の影響を受けていないフレッシュな状態のブドウに、 “貴腐ブドウ” を少しずつブレンドして発酵させます。このブレンド比率によってワインの甘味の度合いをコントロールするのです。最低熟成期間も法律で定められており、とても手間暇のかかる繊細な貴腐ワインです。かのフランス王ルイ14世は「トカイ・アスー」を「王のワインであり、ワインの王である」と絶賛したといわれています。
また赤ワインも有名です。 “雄牛の血” という意味を持つ赤ワイン「ピカヴェール」は、名前から想像できるとおりとても濃厚。とろりと甘い貴腐ワインに情熱的な赤ワイン……星空をひっくり返したかのようにロマンチックなブダペストの夜景にとてもよく合う、濃厚で飲みごたえがあるラインナップが用意されているわけです。
でも、ハンガリーワインには別の顔もあります。例えば「トカイ・アスー」の産地、トカイ地方のこちらのワイン。
暑い日によく冷やしてから抜栓したのでボトルもグラスもたくさん “汗” をかいていますが、とても透明度が高くフレッシュな飲み口の白ワインです。グラスにそそぐと、桃やマンゴーを思わせるフルーティな香りがリゾート気分を演出してくれます。酸味はしっかりありながら柔らかく、ほのかな甘味とスッキリとした後味が陽気な夏の日を連想させます。南仏やスペインのワインといわれても違和感がない軽快さ!
「トカイ・アスー」や「ピカヴェール」の優美な印象が強いハンガリーワインですが、こんなに爽やかな一面もあわせもっているとは、いやはや奥が深い。でも、単に爽やかなだけではなく、こちらのセミドライタイプの白ワインからもふわっと優美さが漂っています。はっきり主張する酸や質実剛健なミネラル感はなく、まろやかな舌触りに包まれた上質な果実の味わいが口の中に広がるイメージです。ハンガリーの民族衣装に身を包んだダンサーたちが小気味いいリズムに乗って軽やかにステップを踏んでいる夢をみているような……。一口飲めば、きっとおわかりいただけるはず。
優美という特徴を持ちながらも、リッチで高級感漂うラインから爽やか&軽やかなラインまで、さまざまな表情をみせてくれるハンガリーワイン。そんなワインたちを象徴するような音楽が、ハンガリーにはあります。「酒場風」という意味を持つ音楽ジャンル「チャルダッシュ」です。元々は兵士たちが酒場で演奏しながら踊っていたといわれています。それが国中に広がり大流行。あまりの熱狂ぶりに、一時はチャルダッシュ禁止令まで出されたのだとか。
確かにとても中毒性のある音楽です。「チャルダッシュ」はゆったりとしたリズムの「ラッセン」と、軽快でスピーディなリズムの「フリスカ」という2つの部分から構成されます。リズムの緩急が面白く、飽きることなく聴き続けてしまうのです。特に「フリスカ」部分の滑らかな軽快さはとても心地よく、聴衆の耳を魅了してやみません。最も有名なのはヴィットリオ・モンティ作曲の「チャルダッシュ」。きっとどこかで聴いたことがあるメロディです。フィギュアスケートの浅田真央選手が女子シングルのフリー演技で使用したことでも有名です。
「チャルダッシュ」のゆったりとした「ラッセン」パートは、「トカイ・アスー」や「ピカヴェール」のようなリッチな印象。軽快で小気味いい「フリスカ」パートは、セミドライの白ワインのような軽やな印象。まるでハンガリーワインの持つさまざまな表情が、曲の中にあますことなく表現されているようではありませんか。モンティ作の「チャルダッシュ」は途中で曲調がニ長調に変化し、すべてのワインに共通する優美さを奏でているようにも感じます。
ぜひ一度「チャルダッシュ」を聴いてみてください。そしてその時にはぜひ、ハンガリーワインをご用意ください。音楽とワインのマリアージュを味わいながら、ハンガリーワインの優美さと奥深さを感じられるはずです。
せっかくなのでおつまみも用意しましょう。ハンガリーを代表する食材といえば……パプリカ!
パプリカは、南アメリカ原産の唐辛子がヨーロッパに伝わり、ハンガリーで品種改良されて今日の姿になった野菜なのだそうです。いわば、ハンガリーはパプリカの育ての親、というわけですね。ハンガリー料理にはパプリカがふんだんに使われています。シチューにサラダにお肉の添え物に……パプリカはハンガリーの食卓に欠かせない食材なのです。
パプリカを使ったおつまみを用意すれば完璧です。今回ピックアップしたパンノン社のトカイ・マスカット・セミドライのような軽快なタイプ(「チャルダッシュ」の「フリスカ」パートのようなタイプ)のワインにあわせるなら、パプリカのシャキシャキした食感やフレッシュな野菜の風味が味わえる料理が理想。ということで、おすすめはこちら!
パプリカを切ってマヨネーズとピザ用チーズをのせ、ブラックペッパーをたっぷりふってオーブントースターで焼くだけ。とーっても、簡単でしょう。これが “「フリスカ」タイプ” のハンガリー白ワインに合うんです。マヨネーズのまろやかな酸味、チーズのクリーミーな風味、パプリカのシャキシャキフレッシュな食感と苦味。どれもがワインに寄り添って、いくらでもいけちゃいます。
「チャルダッシュ」とハンガリーワインのセミドライ白ワイン、それにパプリカのマヨチーズ焼き。これがあればあなたのお部屋はもうハンガリー! 夏休みに空想旅行をしてみてはいかがでしょうか。
それでは、ヴィースラーット!
吉田すだち ワインを愛するイラストレーター
都内在住の、ワインを愛するイラストレーター。日本ソムリエ協会認定
ワインエキスパート。ワインが主役のイラストをSNSで発信中!趣味は都内の美味しいワイン&料理の探索(オススメワイン、レストラン情報募集中)。2匹の愛する猫たちに囲まれながら、猫アレルギーが発覚!?鼻づまりと格闘しつつ、美味しいワインに舌鼓を打つ毎日をおくっている。
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