2022年08月24日

科学的研究に基づく、テイスティングの落とし穴

皆様、こんにちは。ワインインポーターの大野みさきです。今日は科学的な研究に基づいた<思わぬテイスティングの落とし穴>についてご紹介します。

1.高級ワインと知って飲むと、美味しさ倍増だけど・・・・

意地悪な出題ですが、同じワインをブラインドで、一方は高級ワイン、もう一方はテーブルワインという情報を伝えたとします。その場合、圧倒的多数が、前者の方に高い評価をしたそうです。研究では価格が高いと思い込んでいるワインを飲んだ時の方が、脳の喜びを感じる部分が活性化しました。つまりこれは、目の前の事実に基づいた分析よりも、与えられた情報が優位に働いたということです。実際のテイスティング(ワインそのもの)よりも、今までの経験や記憶の感覚、視覚からの情報の方が優勢になるということです。
高級ワインの先入観は、テイスティングにおいては邪魔で、ましてやそこに知識があろうものなら更に厄介です。そうしたものを取っ払うために、「ブラインドテイスティング」があります。産地、造り手、品種、醸造などのワインの情報を伏せてテイスティングする方法です。(その逆はオープンテイスティングと言います。)時にブラインドでは、外観からの情報もシャットアウトすることがあります。色合いも含めて見た目からの情報がとても重要であるということです。
何かの情報が1つ明かされると、知識のある人たちは、本来グラスの中に存在しない匂いも香ります。ソーヴィニョン・ブランはグレープフルーツやハーブの香りがして、ロワールはトマトのヘタ、ニュージーランドが・・・それらは実像を歪めてしまう勝手な思い込みです。知識や経験はもちろん大切ですが、目の前のことにフラットに、公正に向き合うことは、テイスティングでは欠かせないことです。
「このワインは5万円の高級ワインですよ」と事前情報を与えれば、美味しく感じて頂けることも可能ですが、故エミールペイノー教授も、「高級ワインをブラインドテイスティングすると、期待はずれのことが多い」と仰っていました。【高い=美味しい】の公式は、成り立たないことだけは、肝に銘じて下さいね。

2.ワイン通ほど○○なワインを好む

結論から申し上げましょう。ワイン通ほど複雑なワインを好みます。初心者は比較的、シンプルな香りと味わいのワインを好む傾向があります。これはワ()歴の長い人と比べ、ワインに対する経験値が低いからと言われています。歳を取り経験を積むと、人間の嗜好はシンプルな味わいから複雑な味わいへと変化します。例えば、食の経験値が低い幼少期を思い出してみましょう。甘味、旨味、脂味などの単純な味わいを好んだと思います。逆に苦味のある山菜やコーヒー、渋味や酸味などはあまり好きではなかったはずです。特に苦味は自然界では植物の防衛反応(毒)です。そのため元来、私たちは嫌うようにできているのです。しかし、大人になるにつれて経験値が上がり、苦味が安全であることがわかれば、ゴーヤ、青汁、ピーマン、茗荷、銀杏、ふきのとう、焼魚の内臓、サザエの肝なども美味しいと感じるようになります。昔は苦くてとてもじゃないけれど、美味しいと言えなかったビールも、今や、どうでしょう。苦くないビールなんて飲めやしません!
本来、人間は飽き性なので、できるだけ異なる味を求めます。未知のものに対する恐怖や不安のバランスで、複雑なものを受け入れるのに、ある程度の経験が必要になってきます。そのうちワインに慣れてくると、タンニンやオフフレーバーには物ともせず、挙句の果てに、「もっと複雑なワインはないの?」と舌の肥えた通は言い出します。

3.一口目のワインは不味い?!

ワインでもワイン以外でも、最初のひとくち目は、完全に無視して下さい。その理由は美味しくないからです。詳しく説明しましょう。私たちの祖先が猿であった古代からの習性で、初めて口にするものや、馴れ親しんだ飲食物でも、最初のひとくちには「警戒心」が働きます。これを飲み込んで大丈夫か、腐っていないか。毒があれば命を落としてしまいます。生命の分かれ道であるファーストバイトは、脳が全集中で警戒している状態です。言うなれば最初のひとくちに、疑いを向けます。まぎれもなく人類の歩みの中で、本能が培ってきた“疑い”です。現在毒死は稀だとしても、ファーストバイトを疑う習性は残っています。
ワインで例を挙げましょう。ひとくち目は、「嗅いだことのない匂いだったけど、酸っぱくないかな?」「渋いのが苦手だけど、どうかな?」など、脳が疑いを持ち、マイナスの要因を探している状態です。ワインの欠点を探しているので、通常の判断とは異なります。その上、ワインはアルコールを12%前後含む酒飲料です。身体にとって毒です。ひとくち目の印象から疑いが晴れた時、やっと本来の味を感じることができるのです。よって、ひとくち目は完全に無視、スルーするのが良いでしょう。

4.プロのテイスターと素人は何が違うのか

プロの利酒師と素人の脳では、ワインを飲んで感じる部分が異なると、研究報告が出ています。2002年、ローマ医療研究機関による実験では、ソムリエと素人をそれぞれ7名ずつ集め、テイスティングしながら脳をスキャンしました。そうしたところ素人はアフターから味を感じ、一方ソムリエはアタックから扁桃体(=海馬領域の前部)に活性化が見られました。素人は右脳のみ、ソムリエは右脳&左脳の両方が反応しました。いち早くソムリエが、動機付けや記憶を司る脳の部分が活動しました。それはテイスティングに対して意欲的であったり、報酬の期待をしていたり、楽しいワクワクする行為と捉えていたためと研究者は結論付けました。
私もテイスティングの時は、探究心やら今までのデーターベースの掘り起こしと、脳は大忙しの状態です。左脳(計画や戦略を立てたりする部分)を使ったのも、“分析”に走っている証拠です。自分が初めて美味しいと感じたワインの味を覚えていません。おおよそ何百、何千、何万と飲んだ後、もう一度同じワインを飲んで美味しいと感じるか、それは難しいところです。なぜなら積み重ねてきた経験が、自分自身を変えてしまうからです。要するに「慣れ」、そして「経験値が上がった」ということ。飲みはじめの素人だった頃とは異なり、興味を持って試していくと徐々に視点が変わり、受け取り方や感じ方にも変化が表れます。それが脳の反応として出てくるのです。テイスティングのプロは1日にしてならず。日々の経験や学習の積み重ねによって、グッドテイスターが生まれます。

最後に

今回は科学に基づいた<思わぬテイスティングの落とし穴>についてでした。インポーターなので、仕事柄、ワインを利く機会が多いです。しかしテイスティングが終わったら、そそくさと“ワインエンジョイモード”に切り替えます。ワインは分析するものでも、評価や優劣をつけるものでもありません。“楽しむもの”です。それでは皆様、ごきげんよう!

※参考文献【においと味わいの不思議】


365wine 大野みさき

ANA国際線CA7年の在職中にワインに魅せられ、その後は渡仏しワインの勉強をする。2014年に帰国し、翌月にワイン輸入会社365wine株式会社を設立。365(毎日)ワインを楽しんでもらいたいという想いからの社名。スロヴェニアワイン専門のインポーター。現在はママさんスタッフを含め3名で、買い付けから輸入販売、全国の業務店営業やイベントで、スロヴェニアの魅力を各地に広める活動をする。「貴方と大切な方の毎日を笑顔にします!」をモットーに、一緒に働いてくれる仲間を募集中!
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【instagram】https://www.instagram.com/365wine/

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