2022年08月24日

自然派ワインにみるワイン消費の最新トレンドとギリシャの「土着品種」

今回は、自然派ワインブームからみえてくるワイン消費のトレンドを考えます。そして最新トレンドの観点からも注目度が高まっているギリシャのワインをピックアップしてご紹介します。

自然派ワインに集まる注目

世界的にワインの消費量がぐんと増えた19〜20世紀。多くの国がワイン全体の品質底上げやクオリティの維持に奔走し、ブランドの確立を急ぎました。原産地保護を目的とする法律ができ、地域ごとにワインの格付けシステムが生まれました。消費者もそれに足並みをあわせ「ブランド産地の当たり年」だったり「〇年熟成の格付け銘柄」だったり、いわゆる “ブランドワイン” に注目を寄せがちでした。

しかし今、消費者ひとりひとりの価値観はどんどん多様化し、昔みたいに「誰もが知る有名ブランドワイン」ばかりを求める人は減りました。ワインの個性を尊重して自分が良いと思うものに手を伸ばす “本質重視派” が増えてきたのです。いまや伝統的な格付けや評論家がつける点数の代わりに、造り手の醸造哲学やブドウの栽培方法、醸造プロセスにおける添加物の有無などの情報が、ワインを選ぶうえで重要なポイントになりました。従来のメインストリームからは外れていた個性的なワインにもスポットライトが当たり、ワインの選択肢は日に日に増えています。特に注目を集めているジャンルは「自然派ワイン」です。

世界は今、空前の自然派ワインブームに沸いています。自然派ワインとは、簡単にいうと「自然に寄り添う有機農法でブドウを育て、可能な限り添加物を加えずに醸造するワイン」のこと(詳しくはこちらの記事をチェック)。自然派ワインの造り手はブドウ栽培から醸造まで、一貫して「自然との共生」をテーマに掲げています。化学薬品を使わずに生物多様性を尊重しながらブドウを育てます。培養酵母や酸化防止剤などの添加物をできるだけ使わず、産地の風土やその年の環境要因といった “テロワール” をめいっぱい表現したワインを造ります。自然派ワインが環境にも人にも優しいといわれるゆえんはここにあります。

ワインの “コト消費” と “イミ消費” 

人々の関心が自然派ワインに注がれる状況をみると、ワインの “コト消費” と “イミ消費” が加速していることを実感します。ここ数年、消費者の傾向は “モノ消費” から “コト消費” 、そして“イミ消費” へと移り変わってきました。単純に「物」を買う時代から「体験(=コト/事)」を買う時代になり、さらには商品やサービスの「社会的価値や文化的価値(=イミ/意味)」を意識しながら購入し、社会や文化に貢献すること自体に価値を見出す消費活動が盛んになってきたのです。ワインについてもその傾向が見られます。ワインに「物」としての価値だけではなく、「体験」の価値や「社会的価値・文化的価値」を見出して買うシーンが増えているのです。自然派ワインを選ぶのはまさに “コト消費” 、“イミ消費” だと思えてなりません。もちろん香りや味わいといった「物」としての価値もあります。しかし「メインストリームではない珍しいワインを飲む体験」や「造り手を応援することで間接的に環境保護支援を行う社会的価値」は無視できません。

もうひとつ、自然派ワインを語るうえで大事な要素があります。「品種」です。ワインのブランド化が推し進められていた時代、いわゆる「国際品種」のブドウが世界中に植えられました。カベルネ・ソーヴィニヨンやメルロー、シャルドネやソーヴィニヨン・ブランなど。これらの品種が素晴らしいことに疑いの余地はありません。問題なのは、世界のメインストリームだからという理由で、本来環境的に合わない土地にも積極的に植えられ、代わりに土地の「土着品種」が犠牲となり数を減らしてしまうことです。自然派ワインの造り手はその状況を危惧し、積極的に「土着品種」の育成にも取り組んでいます。「土着品種」は土地の環境に適した品種であり、 “テロワール” を味わうのにぴったりな品種です。ワインの個性を楽しむなら「土着品種」こそが主役だといっても過言ではありません。 “コト消費” ・ “イミ消費” の観点からも「土着品種」を育むことは重要です。

「土着品種」ワインのメッカ、ギリシャ

「土着品種」によるワイン造りに最も成功している国として名前があがるのがギリシャです。ギリシャには220種以上の「土着品種」があり、そのうち商品化されている品種はおよそ80種ほどだといわれます(2012年時点)。世界にはもっと多くの土着品種を有する国もありますが、商業的に成功しているケースは滅多にありません。ギリシャは「土着品種」ワインのリーディングカントリーなのです。

ギリシャ国内で製造されるワインの9割近くが「土着品種」によるものだともいわれています。なぜそんなに「土着品種」の割合が高いのか。北緯34度〜41.5度にまたがる多様性に富んだ広大な国土で古くから多種多様なブドウが育まれてきたこと。そして修道院によって宗教的な目的のために「土着品種」が大切に守られてきたこと。最近までワインのほとんどが国内消費されており、「国際品種」の栽培ニーズが低かったこと。そういった複合的な理由が、今のギリシャの状況につながっているようです。最近になって国内経済の冷え込みも手伝い、ギリシャワインは輸出政策へと舵をきりました。それにより多様な「土着品種」が世界中の人の目に触れることとなり、注目度が一気に高まったのです。

数ある「土着品種」の中でも、特に生産量が多く人気なのは黒ブドウ3種、白ブドウ3種の計6品種です。最近ギリシャは観光地で有名なサントリーニ島をキープレーヤーに据えてPRに力を注いでいるため、日本ではサントリーニ島の名産品種「アシルティコ」に親しみをもつ方が多いのではないでしょうか。もちろん全ての「土着品種」ワインが自然派ワインというわけではありません。ただ、世界的な自然派ワインブームの波はギリシャにも波及しており、「土着品種」ワインのメッカという個性をかけあわせて「土着品種」×自然派ワインの造り手が増えています。

ギリシャ「土着品種」の自然派ワイン

今回は「土着品種」×自然派ワインの造り手の中から、サントール・ワイナリーの自然派ワインをチョイスしてみました。選んだ品種は黒ブドウの生産量トップのアギオルギティコです。

サントール アギオルギティコ 2019

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アギオルギティコはギリシャ南部、ペロポネソス半島で盛んに栽培されている「土着品種」です。サントール・ワイナリーもペロポネソス半島に拠点を構えるワイナリーです。自然派ワインにこだわって醸造をしており、自然の中でブドウに付着した天然酵母を使い自然発酵させています。無清澄、無濾過……つまり澱(酵母の残がいなど)を漉したり取り除いたりせず、自然の恵をそのまま食卓に届けるというコンセプトで造られています。無清澄、無濾過のワインは醸造プロセスで動物性の素材を使わないので、ヴィーガン・フレンドリーでもあります。アギオルギティコはオーク樽との相性がいいといわれており、サントール・ワイナリーでもフレンチオーク樽を使って熟成していますが、樽の香りがつきすぎるとせっかくの自然の風味が隠されてしまうので、古くて香りが主張しすぎない樽を選んで控えめに使っているそうです。様々なこだわりがつまったワインです。

ラベルに描かれているのはフクロウ。土地に姿を表す野生動物をモチーフにしているのだそうです。

ワインの味わいは……なんというか、とても透明感があります。香りにはブルーベリージャムのような濃厚な果実みを感じ、口に含むとしっかりとしたタンニンと酸を感じ、第一印象は「強い!」と感じるのですが、後に残るのは透明感。余計なものが入っていないからでしょうか。華やかに登場して余韻を残しながらも、すっと退場する、加減を知ったベテランアーティストのような風格です。酸化防止剤(SO2)はごく少量しか添加されていないので、悪酔いもしにくいはず。

合わせるお料理は、ミートソースがおすすめ! トマトの風味とデミグラスソースの風味、そこにチーズをプラスすればばっちりです。強い味わいで料理の風味を引き立てつつ、後味の透明感で口の中をフレッシュに保ってくれるアギオルギティコの赤ワインと、マッチすること間違い無し。ミートソースパスタやラザニアと一緒に、いかがでしょうか。

参考資料1)ジャンシス・ロビンソン『Wine Grapes』2012年
参考資料2)ヤニス・カラカシス『THE VINEYARDS & WINES OF GREECE 2017』2017年


吉田すだち ワインを愛するイラストレーター

都内在住の、ワインを愛するイラストレーター。日本ソムリエ協会認定 ワインエキスパート。ワインが主役のイラストをSNSで発信中!趣味は都内の美味しいワイン&料理の探索(オススメワイン、レストラン情報募集中)。2匹の愛する猫たちに囲まれながら、猫アレルギーが発覚!?鼻づまりと格闘しつつ、美味しいワインに舌鼓を打つ毎日をおくっている。
【HP】https://yoshidasudachi.com/
【instagram】https://www.instagram.com/yoshidasudachi

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