2022年09月21日

知られざる密造酒の世界

皆様、こんにちは。インポーター365wineの大野みさきです。
もしかしたらどこかで気づかぬうちに、一度は口にしたことがあるかもしれないもの。お酒の中でも法をすり抜けてこっそり造られたもの・・・・それは密造酒です。
レオナルド・ディカプリオ主演の華麗なるギャツビーでは、禁酒法が施行された1920年代のアメリカを描いています。NYのロングアイランドを舞台に、夜な夜な豪華絢爛なパーティを開催する謎の富豪。その裏には密造で得た巨万の富が・・・・・。酒類を不道徳なものとし、禁酒法が課せられた19世紀末には、その需要からもぐりの酒場が増え、密造酒が市民権を得ました。アル・カポネなどの悪の組織が密造、運搬、販売を取り仕切っていた時代です。もぐりの酒場は、薬物、売春、暴力、取り立て、殺人などの悪質な犯罪が付きものです。酒による風紀の乱れは、数々のギャング映画でも描かれています。その後半世紀を経て、映画やドラマをきっかけに密造酒が大流行します。特にインターネットのニュースコンテンツが充実する2004年から、人気は急上昇しました。前置きが長くなりましたが、今日のテーマは密造酒です。ドキドキの知られざる世界を覗いてみましょう。

酒の起源

醸造酒・・・1万年前〜
蒸留酒・・・1500年前〜
密造酒・・・600年より前〜
醸造酒が造られるようになったのは人類の誕生とほど近く、逆に蒸留酒はかなり最近です。密造酒に至っては600年と近代のことです。「About 600 years ago」と、その時期は非常に曖昧です。その理由は、公権力(=支配者)が定めたルールは、時代や国により、バラバラだからです。要するに合法な製造者と非合法な製造者がいて、課税と非課税のお酒が存在します。法を定めた時期がそれぞれ違うから、はっきりと言えません。

密造酒に使われる原料

違法に造られた蒸留酒は、Moonshine (ムーンシャイン/月光)と呼ばれてきました。月明かりの下で製造していたことが由来となっています。こっそりと密に造る・・・・妙に想像できます。それでは各国の密造酒を大公開しましょう。下記に国、名称、原料を掲載しています。

穀物

アメリカ  ムーンシャイン、ホワイトライトニング(トウモロコシ、砂糖)
ケニア   チャンガー(トウモロコシ、ソルガム)
ロシア   サマゴン(ジャガイモ、砂糖)
ラオス   ラオラオ()
エジプト  ブーザ(大麦)
アイランド ポーチン(穀物、砂糖)

ナッツ類

インド   フェニ(カシューナッツ、ココナッツ)

果物

アルメニア オギー(ぶどう、プラム、アンズ)
南アフリカ ウィットブリッツ(ぶどう)
クロアチア ラキヤ(ぶどう、プラム)
イラン   アラグサギ(レーズン)
スーダン  アラク(ナツメヤシ)
ウガンダ  ワラギ(バナナ、サトウキビ)
ジョージア チャチャ(ぶどうなど)
ポルトガル スグアルデンテデメドロンホス(ストロベリーツリーの実)
ハンガリー ハジパーリンカ(プラム、アンズ、チェリー)

乳製品

モンゴル  アルヒ(馬乳)

その他

ミャンマー トディ(ヤシの樹液)
フィリピン ランバノグ(ココナッツの樹液)
パキスタン クッピ、タラ(キカルの樹皮、砂糖)
ノルウェー イエンメブレント(砂糖)

その国で盛んに造られているものを主に原料としています。アルコール御法度のイスラム圏でも平気で造られています。日本の場合はどぶろく(米、米麹、水)が、密造酒としてのイメージがあるようですが、世界のスタンダードでは、醸造酒ではなくアルコール度数の高い蒸留酒を指すようです。

地域の密造酒

2014年、ジョージアでのことです。ショットバーとも言えないような立ち飲みの大衆酒場で飲んでいた際、トビリシ空港の航空管制官と仲良くなり、おばあちゃんが造ったホームメイドのチャチャがあるから飲まないかと。「チャチャ」とはぶどうを原料にしたジョージアンウオッカのことです。昔は農家がワインと同様に手造りする自己消費用のお酒でしたが、現在では業者も製造するポピュラーなものです。15分ほどで息を切らし管制官は戻って来ました。「グランマーのチャチャは最高だよ!」汚らしいペットボトルに入れられた透明の液体に一瞬怯みましたが、世界で最古の蒸留酒のひとつが目の前にあります。それをみすみす試さない手はありません。恐る恐る、グラスを口に運びます。アルコール度数は結構いや相当あるものの、全く嫌な匂いも雑味もなく澄んだ印象です。クオリティも上々でした。ちなみにチャチャという言葉は、果実を原料とする全ての密造酒を表す言葉としてもジョージアでは使われていると後で知りました。あの時のチャチャが何だったのか今となっては知る由もありません。
このように密造酒はめちゃくちゃ多様性があり、世界のどの地域でも造られています。私たちが想像もしない、ありとあらゆる食材から造られています。そんな 地酒ないし、地密造酒・ローカル酒は、必ずと言っていいほど各地に存在します。それも、農村〜都会、富裕層〜庶民と、多様性を更に複雑にし、場所も人も選びません!ここまで広大なエリアで、様々な層に広がっているその理由は多岐に渡ります。

密造酒の役割

・文化の一部で欠かせないもの(=農産品の扱い)
・科学的な実験、宗教的な研究(中世、西欧の修道士は錬金術の研究の一環として)
・魔術的、医薬的(例:ワインがブランデーになるのは、ぶどうやワインの精神を開放すること)
・政治的抗議の手段(密造酒反対派VS支持派)
・知識人の知的好奇心を満たすもの
・安く酔える悲しいかな。これが最たる所以

かつては多くの国で出産時に女性は密造酒を医薬品として、健康にいいからという理由で飲み、子供を産んだとも言われています。ホームメイド酒は薬の位置付けだったのでしょう。
需要があればそこにビジネスが誕生します。前述のギャツビーやアル・カポネのように、納税を免れたオイシイ仕事と、何世代にも渡り違法ビジネスに手を染める業者が後を絶ちません(かつては読み書きができない人が携わったらしいですよ)

密造酒、意外な場所で・・・

密造酒は私たちの想像を絶する意外なところで造られています。いつの時代も密造酒への執念は半端なく、日本人の常識を遥かに超え、真剣・切実・必死な想いで造っています。その事例をご紹介しましょう。
第二次世界大戦中の米国海軍の潜水艦では、乗組員たちが危険な飲み物を作成していました。その名も魚雷ジュース。軍は激しく禁止していたにも関わらず、魚雷のエタノール(=190プルーフ)にオレンジジュースやパイナップルジュースを混ぜて作っていました。どうやらジュースで不味さが軽減されたようです。
お次は刑務所です。世界中の囚人が服役中に酒造に挑みます。器具は盗んだもの、発酵槽は故意に詰まらせた便器を使用。果物、ケチャップ、ゼリーなどの甘味を集めて醸造します。看守の目を盗んでの密造酒、とりわけ蒸留酒は高額で取引されました。

禁酒下のソ連でのこと。1920年代半ばの密造酒の全盛期には、100万個の蒸留器が密造酒を生み出したと推定されます。なんと国民の2030%は正規品の半値の密造酒を飲んでいたと言われています。そしてソ連の崩壊後も“密造酒大国”として、現在に継承されています。

いつの時代も作物の価格は不安定です。不作は言うまでもありませんが、豊作の場合は価格が暴落します。作物だと腐りますが蒸留酒にすればその心配もありません。すこぶる需要があるのと、農作物とは比較にならない高値で取引されるという点から、世界の農家はその大小の規模を問わず、密造酒が実に魅力的に映ったことと思います。特筆すべきは、これらの話は過ぎ去った過去のことではなく、現在もing系でなお続いていることです!

密造酒の問題

モスクワタイムズの報道では、密造酒による年間の死者数が4万人としています。【インドでメタノール中毒者が続出!パーティで密造酒を飲んで100人が死亡!】こんなニュースの見出しを目にすることがあります。お金のない若者が質の悪いアルコールに手を出し大量摂取で命を落とす。あるいは精神の損傷や失明、エタノール中毒となり入院。密造酒はメタノールやエタノールなどの有毒な化学物質を含むものもあり、防虫剤などの工業製品、または蒸留器具のハンダの鉛が検出されることもあります。合法の蒸留酒がアルコール度数40%なのに対し、密造酒は80%になることもあります。

アルコールの種類

・エタノール(=エチルアルコール)・・・・ワインなどの全てのアルコールの主成分。
・メタノール(=メチルアルコール)・・・・毒性あり。ホルムアルデヒドの原料。失明や死の恐れがある。
・フーゼルアルコール・・・・アルコールの総称。良い風味、不快な風味をもたらす。
・変性アルコール・・・・エタノールに様々な化学物質を添加したもの。吐き気や中毒を引き起こす。
・イソプロピルアルコール(=消毒用IPA)・・・・殺菌や溶媒に使われエタノールより安価。アルコール度数7090%、飲用不可。吐き気や中毒、死に繋がる。

その他、密造酒で発展途上国のスラム街が犯罪の温床になったり、ギャングの凶悪犯罪が横行したり、偽蒸留酒が出回ったり、製造所のお粗末な装置で爆発事故が多発したりと、様々な社会問題を抱えているという側面もあります。

非合法と合法

蒸留酒を合法非合法に線引きして500年が経ちました。元々はどの家でも作っていたのもが、ある日突如として違法になるのですから。おばあちゃんがこしらえる田舎の自家製酒が、一挙に法のもとに管轄され、全国的なものになるわけですから。昨日まで造っていたものが、今日からいきなり禁止となっては、反発と抵抗が続くのも不思議ではありません。ローカルが全国化されて納得できない人もいるでしょう!

宗教上で禁酒政策を取り入れ、所持しているだけで刑務所に入れられたり、鞭打ちの刑に処されたりするサウジアラビアでさえ、禁酒を守らせるのには大変な苦労を強いられています。アラビア半島ではそれこそ古くからワインを飲む文化が根付いています。「ロイヤルファミリーがワインを楽しんでいる」という話も広まり、「アラブの王子も飲んでるやん」となり、規制を設けても従うわけがありません。政府の取り締まりが厳しくなればなるほど、ことごとく失敗してきたのが世の常です。密造酒は政治と切り離し、政府と国民と製造業者がwin−win−winになる政策を行っている国は、成功を収めています。押さえるべきポイントは、国民はかなりの割合で飲酒を楽しんでいるという事実と、情報があふれていて誰にでも簡単に密造できるという点。それを押さえて宗教が厳しい国を除き、全面的に酒造を禁止するのではなく、ある程度の管理下におき権限を与える政策が効果的のようです。

消費者
正規の酒(密造酒でない)より少し値は高いが、一定基準をクリアした【安全な酒】が手に入る
製造業社
低額の税金を納め、工場と製品の監査を受け入れたら【酒造が合法的に行える】
政府
低額でもライセンス発行により税収が得られる。密造酒より価格が僅かに高いので国民の消費を程々に抑えることができる。密造酒の健康被害や製造事故が激減する。

三方よしですね。合法ブランドが確立すれば、密造酒合法酒にシフトし、アンダーグラウンドビジネスは縮小するので治安も良くなり、国()に平和が訪れるというシナリオです。実際にニュージーランドでは、販売せず自分で飲むのであれば、酒造が自由にできます。ケニアでも、かつては罰金を課して厳しく取り締まっていた非合法酒のチャンガー(同国で消費されるアルコールの85%に相当)は、2010年に合法化されました。今まで非合法だったものが、国を代表するお酒として、陽の目を浴びるようになったのです。これによって製造業者は、登録制度で検査に応じる必要があり、粗悪で命を落としてしまう危険性のある酒に安全基準が設けられました。密造酒がなくなることは、まず現実的に考えられないので、それを逆手に取り、賢くコントロールするのが得策であると言えます。
日本においては、酒造免許を有さない者の酒類製造が禁止されたのは、1899年(明治32年)のことです。そもそもは農山村部を中心に自己消費用に造られていた密造酒も、戦後の混乱期には職を失った人々が都会で造りはじめました。食糧難の時代に穀類が密造酒の原料に充てられたため、慢性的な食料不足に陥ります。軍用アルコールを添加した密造酒が闇市で出回るなどして、組織的で大規模に製造されるようになりました。ラベルを偽装して有名メーカーの酒と偽り、工業用アルコールを使用した密造酒による健康被害も深刻になりました。市民の安全、平和と秩序、また酒税は所得税とともに日本の税収を支えてきたという観点からも、密造の取締りが厳しく行われました。取締りの強化や税率の軽減、正規酒類の漸増により、1950年をピークに密造酒は減少していきます。現在、酒税にまつわる犯則事件は激減しているようです。

合法密造酒

昨今のDIYや手作りブームに便乗して、合法の密造酒が「本物」と言われ、人気を呼んでいます。YouTubeでは世界の密造酒の造り方が公開されています。2010年〜2014年のアメリカでは、合法密造酒の売上が1000%増というから驚きです。同国の酒販店や飲食店には、必ず1アイテムは密造酒が常備している状態です。BARではクラフトカクテル用に密造酒を愛用。オール・スモーキーは州の法改正で、非合法から合法を手に入れた密造酒です。日本でも提供しているBARがあるぐらい、今ではポピュラーなウイスキーになりました。その上、ワイナリー見学ないし、密造酒見学でツアー&テイスティングを実施しており、観光業にも力を入れています。こうなっては大手の合法メーカーも黙っていません。合法密造酒に参入しましたが、それらは大手ビール会社が造る偽物のクラフトビールのようだと酷評されます。人気の合法密造酒を載せておきますね。

人気の合法密造酒ブランド

・オールスモーキームーンシャイン
・ジュニアジョンソンズミッドナイトムーン
・ヴァージニアライトニング
・ハドソンニューヨークコーンウイスキー
・ノッキーンヒルズアイリッシュポーチン
・バンラッティポーチン
・バッファロートレイスホワイトドッグマッシュ
・オニックスムーンシャイン
・ポップコーンサットンズテネシーホワイトウイスキー
・モスビーズスピリットアンエイジドオーガニックライウイスキー

最後に

今日は密造酒についてお伝えしました。2010年にイラン旅行をした際のことです。ペルセポリスと言う遺跡で知り合った、タイの飲料メーカーの家族と仲良くなりました(対米関係が悪いので基本的にアメリカの製品、サービスは入って来ない国)タイ人と現地の飲料メーカーと何故か私の3組で会食をすることになりました。その時のことです。イラン人「酒類は持ち込めないし、所持しているだけで投獄。イランは禁酒の国ですよ。でも、アンダーグランドビジネスとしては需要があるので、密造はしています。良かったら見学もできますよ」 絶対にノーサンキューです。永久にイランから出られなくなる可能性もありますから断固としてノーサンキュー。命は大切ですからね。
WHOによれば、世界の蒸留酒の4分の1は密造酒と言われています。貴方もどこかで口にしているかも・・・・それでは皆様、ごきげんよう!

参考文献: Moonshine : A Global History (KevinRKosar)/  国税庁のウェブサイト


365wine 大野みさき

ANA国際線CA7年の在職中にワインに魅せられ、その後は渡仏しワインの勉強をする。2014年に帰国し、翌月にワイン輸入会社365wine株式会社を設立。365(毎日)ワインを楽しんでもらいたいという想いからの社名。スロヴェニアワイン専門のインポーター。現在はママさんスタッフを含め3名で、買い付けから輸入販売、全国の業務店営業やイベントで、スロヴェニアの魅力を各地に広める活動をする。「貴方と大切な方の毎日を笑顔にします!」をモットーに、一緒に働いてくれる仲間を募集中!
【ワインショップ】http://www.365wine.co.jp/
【instagram】https://www.instagram.com/365wine/

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