
2022年10月01日
毎年11月第3木曜日におこなわれる、ボジョレーヌーヴォー解禁に心を躍らせるのは世界の中でも日本だけ、という事実を知っているでしょうか?この記事では、ボジョレーヌーヴォーに解禁日が設けられた歴史や、日本人がボジョレーヌーヴォー解禁に熱狂する理由を解説します。
生産者が丹精込めて醸したワインを、初めて口にすることができる解禁日。ボジョレーヌーヴォーにはおなじみのイベントですが、ほかのワインでは解禁日を楽しむ風習はあまり見られません。そもそもボジョレーヌーヴォーとはどのようなワインなのか、なぜ解禁日が設けられたのか、ボジョレーヌーヴォーの歴史を振り返って解説します。
ボジョレーヌーヴォーとは、フランス・ブルゴーニュ地方のボジョレー地区で、その年に収穫したガメイという品種のブドウから作られた新酒(ヌーヴォー)のことを指します。フランスの法律により、ガメイ品種以外のブドウを使ったワインはボジョレーヌーヴォーとして認められません。ボジョレー地区では白ワインも作られていますが、ボジョレーヌーヴォーと名前が付くものに白ワインは存在しないのです。
ボジョレーヌーヴォーはもともと、地元の人々が気軽に飲むお酒として1800年代から作られていました。時が経ち、フランス政府が軍隊用のワインを確保するために、ワインの出荷を管理するようになります。1951年には、「ボジョレーヌーヴォーは12月15日まで出荷してはならない」というフランス政府による出荷制限が設けられてしまいました。ワイン生産者たちは、フレッシュでおいしい状態のボジョレーヌーヴォーをもっと早く販売したいと要求します。その願いが聞き入れられ、ボジョレーヌーヴォーの12月15日以前の販売が正式に認められたのです。
ところが、今度は生産者が出荷の早さを競うようになり、質の悪いワインが出回る事態になってしまいました。ワインの質の低下を食い止めるため、1967年に「ボジョレーヌーヴォーは11月15日を解禁日とする」と日付が定められます。
しかし、この日が土日や祝日に当たると運送業者が休みになり、ワインを届けることができなくなるという問題が発生してしまいました。そこでフランス政府は、1985年にボジョレーヌーヴォーの解禁日を「11月第3木曜日午前0時」と規定したのです。
11月の第3木曜日は、全世界で統一されたボジョレーヌーヴォーの解禁日です。日本は日付変更線の関係で、ボジョレーヌーヴォーが作られているフランスより早く飲めることになります。そこに、1986年からのバブル景気と高級ワインブームに沸いている日本人が飛びついたのです。
1964年の東京オリンピック開催以降、ワインが少しずつ日本に浸透しはじめます。1970年におこなわれた大阪万国博覧会を契機に欧米の食文化が広まり、第1次ワインブームが到来しました。その後いくつかの小さなワインブームが起こりますが、人々の記憶に残るほどではありませんでした。しかし解禁日イベントとともにボジョレーヌーヴォーが上陸したことを発端に、日本は一大ワインブームとなったのです。
その季節に初めて口にする「初物」を尊ぶ日本の風習も、ボジョレーヌーヴォーの流行に影響を与えていると考えられるでしょう。
日本人は伝統的に「初物は縁起がよい、初物を食べると寿命が延びる」と考え、その季節のはしりの食べ物を珍重してきました。現代でも、日本人の初物文化はかつおやお茶、米などの食べ物に残っています。かつては、着物を着る際に少し先の季節の植物の柄を選ぶなど、季節を先取りすることを粋とする風習もありました。ボジョレーヌーヴォー解禁が日本でブームになった要因には、そのような日本人の伝統的な価値観が関係しているでしょう。
そうとは言っても、おいしくないものに触手は伸びません。ボジョレーヌーヴォーのフレッシュで飲みやすい味わいが、重いワインに飲み慣れていない日本人の口に合ったことも、一気にボジョレーヌーヴォーブームに火がついた理由であると考えられます。
バブル崩壊にともなって、ボジョレーヌーヴォーブームは一旦落ち着きました。しかし、過ぎし日の日本を沸かせた年に1度のワインのお祭りは、現代日本のシーズンイベントとして定着しています。
ボジョレーヌーヴォーの本国フランスでは、ボジョレーヌーヴォーの解禁をどのように受け取っているのでしょうか。フランスでは、日本のようにボジョレーヌーヴォー解禁で盛り上がる人の姿をほとんど見かけません。フランス人にとって、ボジョレーヌーヴォーの解禁は秋の収穫を祝うイベントのひとつに過ぎず、日本のように熱狂的にボジョレーヌーヴォーを求めるフランス人はいないそうです。日本ではボジョレーヌーヴォー解禁を盛り上げる広告を至るところで目にしますが、フランス人のなかにはボジョレーヌーヴォーの解禁について知らない人もいます。
ボジョレーヌーヴォーは世界中へ輸出されているにもかかわらず、日本とフランス以外の国でのボジョレーヌーヴォーの知名度はいまひとつのようです。フランスから輸出されるボジョレーヌーヴォーの半分が日本へ出荷されているところにも、日本のボジョレーヌーヴォー熱がうかがい知れます。
11月第3木曜日を、世界一心待ちにしている日本人。ワインに関するイベントは多々ありますが、ボジョレーヌーヴォーの解禁だけに国を挙げて熱中している様子は、本国フランスの人々から見ても少し奇異に映るようです。
日本のボジョレーヌーヴォー解禁は、海外の人から見ると風変わりなイベントになってしまいました。しかし、ボジョレーヌーヴォーが日本にワイン文化を定着させるきっかけを作ったことは事実です。ボジョレーヌーヴォーの解禁日は、1年に1回、日本人とワインの距離が近くなる日とも言えるでしょう。今年のボジョレーヌーヴォーが解禁されたら、ワイン好きの人だけでなく普段ワインを飲まない人も誘って、フレッシュでおいしいボジョレーヌーヴォーの味わいを楽しんではいかがでしょうか。