2022年09月28日

けっきょくテロワールって何? 「味」「飲みごたえ」「香り」を決める環境要因(前編)

ワイン通の人にとっては常識となっている「テロワール」。「土地」を意味するフランス語「terre」から派生した言葉で、ワインの個性を決定づける “環境要因” をまるっとまとめた言葉です。ブドウの木は他の果樹よりも土地の個性を反映しやすいといわれています。そのため気候や土壌、ヴィンテージ(生産年)や造り手のポリシーによってワインの味わいに差が生まれます。日本では気候、土壌、造り手をそれぞれ漢字一文字で表して「天・地・人」なんて表現されることもあります。

私たち日本人にとって「テロワール」という言葉の響きはとても抽象的です。多くの意味を含んでいて、ワイン初心者にはとっつきにくいことこの上ない。「昼夜寒暖差の激しい大陸性気候のエリアにある泥灰岩土壌の畑で育ったブドウを使って、ナチュラル志向の生産者が造ったワインだからこうなってああなって……」と、スマートに言語化できればかっこいいけれど、どうにもハードルが高い。たいていの場合、超寒いところで造られるワインは酸味が強そうとか、小規模ワイナリーのワインはより個性が強そうとか、そんなふうに感覚的にとらえている人がほとんどだと思うんです。

それでも全然OKだと思う反面、少しでも「テロワール」を理解できた方が深淵なるワインの世界をより楽しむことができるとも思います。そこで「テロワール」をよりシンプルに理解するために、(1)ワインの「味」を決める要因(2)ワインの「飲みごたえ(凝縮感)」を決める要因(3)ワインの「香り」を決める要因 にわけて整理してみます。前編ではまず(1)ワインの「味」を決める要因(2)ワインの「凝縮感」を決める要因をとりあげます。

ワインの「味」を決める要因

ワインの「味」を決める要因は、日照量と気温にあるといわれます。

まずは日照量。ワインはアルコール飲料であり、アルコール発酵によって造られます。アルコール発酵とはすなわち、酵母が糖をアルコールと二酸化炭素に分解する作用です。当然、糖がなくては始まりません。糖の正体とは何かというと、ブドウの木の光合成によって生成されるグルコース(ブドウ糖)です。つまり、よ〜く陽があたる場所で育つブドウは光合成を盛んに行って、たっぷりと糖を蓄えることができるというわけです。よく「このワインの原料ブドウは南向きの斜面にある畑で育ち……」みたいな記述を見かけますが、これは「たっぷり陽の光を浴びてたくさん光合成して糖を蓄えました!」という意味にもとれるわけです。

次に気温。気温が高いほどブドウはよく熟し、糖の量が増えます。糖の量が多いとアルコール度数があがりやすくなったり、発酵しきれずに残糖として残るケースが出てきます。これがワインの「厚み」や「ボディ」の強さに影響します。チリやスペインなどの暖かい地域で造られるワインは飲みごたえがあるといわれるのはこのためです。反対に、涼しい地域ではブドウの成熟が遅く糖が少なくなるため「厚み」や「ボディ」が弱まります。ブルゴーニュなど、 “繊細” や “エレガント” という言葉で表現されるワインをイメージするとわかりやすいですよね。

「酸味」も気温の影響を受けます。前提として、酸はブドウの成熟とともに減っていきます。ブドウは繁殖のために鳥などに果実を食べてもらって種子をばらまく戦略をとっていますが、種子が未熟なうちは酸を豊富にたくわえ “おいしくない状態” にしておき、熟すにつれ甘味を増して食べられやすくなるそうです。気温が高い=早熟するということは、早々に酸が失われることにも繋がります。反対に気温が低い=なかなか熟さない場合は、最後まで酸がしっかり残ります。冷涼な産地のワインに酸味を強く感じるのはこのためです。

ちなみに、酸と糖のバランスには昼と夜の気温差が重要だといわれます。暖かい昼間のうちに糖をたくさんたくわえ、涼しい夜間の間は休息をとる……。そうやって整ったバイオリズムで育つとバランスのいい果実になるのだそうです。人間と同じですね。

ワインの「飲みごたえ(凝縮感)」を決める要因

ワインの “果実味” や “濃さ” といった「飲みごたえ(凝縮感)」を決める要因は、土壌です。簡単にいうと、 “表土が肥沃な土地” で育つブドウは水っぽくなりやすく、 “表土がやせている土地” で育つブドウは果実一粒あたりの凝縮感がぐんと増すといわれます。どういうことかというと……

“表土が肥沃な土地” ではブドウの根がごく浅く張り巡らされ、水分や養分をぐんぐん吸い上げるのだそうです。そうすると「つる植物」の性質をいかんなく発揮し、ブドウは上に上に成長してき、みずみずしい生命力をみなぎらせながら縦横無尽に枝をはりめぐらせます。たくましく伸びた枝には無数の果実がたわわに実り、もぎたい放題。いいことづくしのように思えますが、ところがどっこい、果実一粒あたりの凝縮度は相対的に下がってしまうのです。ブドウの身になって考えたら、一粒に栄養をみなぎらせるよりもたくさんの種子を実らせた方が、繁殖戦略的には正解ですもんね。

“表土がやせている土地” ではそう簡単に水分や養分を取り入れることができず、根を地中深くもぐらせることになります。下へ下へと根をはりようやくたどりついた下層土壌から貴重な養分を吸い上げたブドウの木は、勢いの弱い枝にごく少量の房を実らせます。すると一粒あたりの凝縮度は相対的に高まり、そのブドウから造られるワインは必然的に濃い、果実味豊かな味わいになるというわけです。

よくワインの味わいで「ミネラリー」と表現されることがありますよね。ブドウの木が地中のミネラル分を吸い上げて果実に蓄えるからだ……と説明されることがあります。今のところ根から吸収された成分が果実に蓄積されることを証明した研究はなく、否定的な見方も多いようです。個人的には “表土がやせている土地” で育ったブドウを使って醸造したために凝縮感が高まり、結果として塩気があるように感じたり「硬水」のような “硬さ” を感じたりするのではないかと考えています。

なお、土壌にはさまざまな種類があります。粘土質土壌や石灰質土壌、花崗岩質土壌や泥灰岩質土壌……実にさまざまです。そういった土壌の種類によってワインの凝縮感や味わいが変化するという人もいます。実際多くの造り手が土壌と向き合い、土壌の恩恵を活用したワイン造りを行っています。ただ、実際に私たちがワインを飲むときに細かい土壌の違いを味わいの違いとして感じることができるかどうかは別問題です。熟練したソムリエであればもしかすると認識できるのかもしれませんが、私にはそこまでわかりません。せめて「ミネラリー」なワインを飲んだときに「このワインの出身地は “表土がやせている土地” で地中深くの養分を吸い上げながら結実したのかな」と思いをめぐらせたいと思う、今日このごろです。

後半へ続く! 後半は(3)ワインの「香り」を決める要因 についてお話します。


吉田すだち ワインを愛するイラストレーター

都内在住の、ワインを愛するイラストレーター。日本ソムリエ協会認定 ワインエキスパート。ワインが主役のイラストをSNSで発信中!趣味は都内の美味しいワイン&料理の探索(オススメワイン、レストラン情報募集中)。2匹の愛する猫たちに囲まれながら、猫アレルギーが発覚!?鼻づまりと格闘しつつ、美味しいワインに舌鼓を打つ毎日をおくっている。
【HP】https://yoshidasudachi.com/
【instagram】https://www.instagram.com/yoshidasudachi

この記事をSNSでシェアする