
2021年11月10日
黒色に近い濃厚な色調から「黒ワイン」という別名がある赤ワイン用ブドウ品種、マルベック。力強い味わいを連想しがちですが、なめらかな口当たりと豊かな果実味があり、実は飲みやすいワインです。この記事ではマルベックの特徴や主な産地、マルベックから作られるワインの味わいなどを紹介します。
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Emanuel Villalobos
「黒ワイン」とも呼ばれる濃厚な色合いが印象的なマルベックは、フランス南西部に位置するカオール地区原産の赤ワイン用ブドウ品種です。かつてマルベックは、ボルドーでも多く栽培されていました。しかし受粉の難しさ、病気や冷涼な気候に対する弱さのため、栽培量が減少してしまったのです。現在アルゼンチンを代表するブドウ品種となっているように、マルベックは日照量が多く、温暖で乾燥している気候が栽培に向いています。
マルベックから作られたワインは、濃いめの色調からパワフルな味わいを連想してしまいがちです。しかし実際に口にしてみると、意外とエレガントな味わいに驚くでしょう。マルベックは地ブドウの「プルネラール」と「マドレーヌ・ノワール・デ・シャラント」の自然交配で生まれたとされています。「マドレーヌ・ノワール・デ・シャラント」はメルローの片親でもあるので、マルベックとメルローは片親違いの兄弟ということになります。
マルベックといえばアルゼンチンが有名な産地ですが、原産地であるフランス南西部でも栽培されています。ほかにはアンデス山脈をはさんだアルゼンチンの隣国チリ、スペイン、イタリア、アメリカ、カナダ、オーストラリア、南アフリカなど世界各地で栽培されているブドウです。
アルゼンチンの赤ワイン用ブドウ品種として、No.1の生産量を誇るマルベック。アルゼンチンは十分な日照量があり、降雨量は少なく乾燥しているため、マルベックの生育に最適な土地です。湿度が低いため、マルベックが苦手とする病気や虫の被害が少ない点も、栽培に適しているポイントといえるでしょう。
アルゼンチンのなかでも特にマルベックの生産地として有名なのは、南アメリカ最大のワイン産地であるクージョ地方に位置するメンドーサ州です。アンデス山脈のふもととはいえ、標高800mを超える土地で育てられるマルベックは、強い日光と昼夜の気温差を受けて品質の高いブドウに仕上がります。
アルゼンチンには、1860年代にフランスからマルベックをはじめとする、ヨーロッパ系品種のブドウが持ち込まれました。特にマルベックはアルゼンチンの気候と相性がよく、生産量が増えていったのです。降雨の少なさは、アンデス山脈の雪解け水を利用することで補いました。1990年代以降、海外の生産者による栽培や醸造に関する技術が導入され、アルゼンチンワインの品質は大きく向上します。アルゼンチン産のオーガニックワインがしばしば見られるのは、病気や虫による影響が少なく、農薬の使用量を抑えられるためです。
マルベックはフランス国内ではコット、原産地のカオール地区ではオーセロワとも呼ばれています。カオール地区では、マルベックの生産が盛んです。単一品種、またはマルベック主体で、メルローやタナを補助品種としてブレンドしたワインが多く作られています。
カオール地区はフランスでも非常に歴史が古いワイン産地であり、かつては中世ローマ法王もカオールのワインを愛飲していたと伝えられています。ボルドーよりも降雨量が少なく、秋に吹くオタンと呼ばれる暑く乾燥した風のおかげで、よく熟して色の深いマルベックを収穫できることがカオール地区の特色です。現在はフランス国内でも比較的デイリーで飲みやすいワインの生産地として、多くの人々に親しまれています。
ボルドーで赤ワインの原料として使用が許可されているブドウ品種のうち、ひとつがマルベックです。かつてはマルベックもボルドーで盛んに栽培されていましたが、病気や虫害に弱いため、カベルネ・ソーヴィニヨンやメルローなどに植え替えられてしまいました。現在ボルドーでわずかに生産されているマルベックは、メルローやカベルネ・ソーヴィニヨンにブレンドされて、ワインに複雑味を加える補助品種として使用されています。
そのほかフランス国内では、ロワール川流域のトゥーレーヌ地方でも生産されており、主にカベルネ・フランとブレンドされて使われています。
マルベックの最大の特徴は、「黒ワイン」と呼ばれるほど濃い色調です。ブドウの粒が小さくて果皮が分厚く、色素やタンニン、ポリフェノールをたっぷり抽出できるため色が濃くなります。若いマルベックのワインからはブラックベリーやブルーベリーなどの果実の香りや、すみれの花の香りが感じられるでしょう。熟成させると皮やスパイス、タバコのような複雑な香りが増してきます。
味わいは濃厚でジューシーな果実感があり、バランスのよい酸味も感じられます。豊富なタンニンによるボディがありますが、口当たりはなめらかです。熟成したマルベックのワインは、シダや鉄のようなニュアンスが現れて、より複雑で個性的な風味を楽しめます。
アルゼンチンで作られるマルベックのワインは、芳醇な果実味があり、タンニンはやさしくまろやかです。畑の標高が高いため、酸が多くなる傾向があります。親しみやすい味わいで、若いうちからおいしく飲めることが、アルゼンチンで作られるマルベックのワインの魅力です。フランスのカオール地区で作られるマルベックのワインは、凝縮感のあるパワフルなものが多くありましたが、近年はエレガントなワインも作られています。
濃厚な味わいのマルベックには、やはり肉料理をおすすめします。シンプルに塩と胡椒のみで味付けした赤身の牛肉と、マルベックの相性は格別です。アルゼンチンでは牛肉がよく食べられており、岩塩をすり込んだ牛肉の塊を炭火で豪快に焼くバーベキュー料理「アサード」とマルベックの組み合わせは、現地の人々に人気です。スパイシーな風味を感じるマルベックには、黒胡椒をたっぷりまぶした肉料理や、香辛料が使われたソーセージなどを合わせるとよいでしょう。
フランスのカオール地区に、「コンフィ・ド・カナール」と呼ばれる郷土料理があります。鴨肉を低温の油でじっくり煮込んだこの一品も、マルベックの濃い味わいによく合います。フランス南西部でよく食べられる、ガチョウや鴨、白インゲン豆、ソーセージなどを煮込んだ素朴な味わいのカスレも、マルベックと合わせてほしいおすすめの料理です。アルゼンチンのワインより力強さのあるカオールのマルベックには、羊やジビエなど少しクセのある肉料理も合うでしょう。
もっと手軽なところでは、ハンバーグやビーフシチューなど、こってりしたソースがかかった肉料理がおすすめです。ミディアムボディのマルベックであれば、豚肉や鶏肉の軽い煮込みや、肉じゃがやすき焼きなどの甘辛い味付けの和食と合わせてもおいしく楽しめます。
同じブドウ品種を使用しても、アルゼンチンとフランスでは違った味わいのワインに仕上がります。今回紹介するワインを参考に、飲み比べてみるのもおもしろいのではないでしょうか。
¥1,710(税込)〜/赤/アルゼンチン
カイケンは、チリの大手ワイナリーであるモンテス社が、アルゼンチンで手掛けるワイナリーです。アルゼンチンの恵まれたテロワールを、最大限に活かしたワイン作りに努めています。凝縮感のある果実味や、スパイシーな風味が感じられる力強い味わいですが、タンニンはなめらかです。ほどよく樽の香りをまとい、塩と胡椒をかけてグリルしたようなシンプルな肉料理によく合います。
¥1,630(税込)〜/赤/フランス
このワインを作っているシャトー・ラマルティーヌは、130年以上の歴史ある生産者です。テロワールを尊重したブドウ栽培、伝統的な醸造方法を大切にしつつ、温度コントロールや衛生管理が行き届いた設備を整えています。やわらかさを加えるためにメルローを20%ブレンドしているものの、マルベックらしい果実味やまろやかなタンニンが感じられる味わいです。しっかり飲みごたえがありながら、エレガントなワインに仕上がっています。
¥2,378(税込)〜/赤/アルゼンチン
トラピチェはグループ全体の輸出量ではアルゼンチンNo.1、同ワイナリーが作り出したワインは世界20カ国以上で親しまれている、メンドーサ州の名門ワイナリーです。このワインはマルベックを100%使用し、フレンチオーク樽で熟成させています。ルビーのような輝きのある濃い赤紫色をしており、黒い果実のジャム、花やミネラルのニュアンスが感じられます。エレガントなスモーク香やスパイスの風味で、深い味わいと長く心地よい余韻が楽しめるワインです。
¥2,970(税込)〜/赤/アルゼンチン
アルゼンチン随一の老舗ワイナリーであるボデガ・ノートンが、ファンの声に応えて作り出したマルベック100%のハイクオリティワインです。濃厚な果実味と心地よいタンニン、樽のニュアンスを感じ、力強さとエレガントさをどちらも楽しめます。フルボディで飲みごたえたっぷり、満足度の高い1本です。
¥2,200(税込)〜/赤/フランス
カオール地区のなかでも、それまで焦点が当てられなかった標高約300mの土地にて、ビオロジック農法で育てたマルベックを使用したワインです。従来のカオール地区の土壌とは異なるテロワールを活かして、ラベルから連想されるようなモダンでスタイリッシュな印象に仕上げています。力強さと繊細さをかね備えた、カオールワインの新しいスタイルです。
マルベックから作られるワインは濃厚な色合いをしているため、味わいも力強いイメージを抱きがちです。しかし一口飲んでみれば、豊かな果実味となめらかな口当たりを感じ、マルベックに親しみが湧くでしょう。飲みごたえがありながらも手に入りやすい価格のワインも多いので、赤身の肉と合わせて気軽に楽しんでみてください。
※商品価格は、2022年10月25日時点での情報です。