2022年11月09日

まるでブルゴーニュのピノ・ノワール……! 激レアなアメリカン・ネッビオーロ

「世界で最も高貴なブドウ品種」というと、何を思い浮かべますか? ワインオークションの常連銘柄に使われるピノ・ノワールでしょうか。それとも、ボルドー5大シャトーの主役品種であるカベルネ・ソーヴィニヨンでしょうか。どちらもとても品格のある品種ですね。でも今回注目したいのはそのどちらでもなく、「ネッビオーロ」です。

イタリアはピエモンテ州の土着品種、ネッビオーロ。ピエモンテを中心に北イタリアで栽培されている赤ワイン用の品種です。世界的に有名なバローロバルバレスコにも使われているので、ご存知の方も多いのではないでしょうか。「イタリアが誇る最高の土着品種」なんて賞賛されることもあるほど、気品に満ちたブドウです。

なぜネッビオーロを話題にするかというと……既成概念を覆すほどおいしくて胸に響く、カリフォルニアのネッビオーロに出会ってしまったから……! 気難しくて栽培難易度が超ハイレベルといわれるネッビオーロ。そんなネッビオーロ100%のカリフォルニアワインに出会えるなんて。しかも記憶に刻まれるほどおいしいなんて。というわけで、ネッビオーロがどんなブドウで、私が出会ったカリフォルニアのネッビオーロがどうすごいのかをしたためます。

黒い宝石「ネッビオーロ」の気難しさ

先ほども書いたとおり、ネッビオーロは気難しくて育てるのが非常に難しい品種といわれています。条件がそろっている場所でないとうまく成熟せず、まったく収穫できないなんてことも珍しくないからです。

まず第一に、ネッビオーロはとても晩熟です。通常ワイン用ブドウの収穫は9月〜10月ごろですが、ネッビオーロはちょうどいい具合に熟すのに時間がかかり、収穫時期が11月以降にずれこむことが多いのだとか。11月といえば北半球では秋から冬にさしかかる季節です。地域にもよりますが、気温がぐんと下がります。ネッビオーロが厄介なのは、晩熟なくせに寒さに弱い点です。いい感じに熟したのでさあ収穫だ! というタイミングで寒さにやられて台無しに……そんなリスクがついてまわります。

さらに、ネッビオーロの実は粒が密集しており、外気の湿度が高いとカビが発生しやすいという弱点があります。収穫時期が後ろにずれればずれるほど、霧や雨、霜にさらされ、カビのリスクが高まります。ここでも晩熟があだとなってしまうわけです。ちなみにネッビオーロの名前の由来は「霧(イタリア語でネッビア)が発生する時期に熟し、畑で宝石のようにきらきら輝くから(イタリアのオーロ=黄金)」といわれています(諸説あり)。ロマンチックではありますが、輝いているのは数々の苦難を乗り越えることができたブドウだけ……そう考えると、世知辛いですね。

ネッビオーロの栽培にはできるだけ寒さと多湿から守られる環境が必要で、小高い丘の南向きの斜面にある風通しの良い畑が理想的です。なかなか条件にあう場所は少なく、イタリアでもピエモンテ周辺と南イタリアの一部でしか栽培できないといわれます。過去にフランスのボルドーでネッビオーロの移植を試みたことがあったらしいのですが、うまく定着せずに断念したそうです。

アメリカン・ネッビオーロ

そんなネッビオーロですが、近年ではいわゆる「新世界」の国々でも徐々に栽培されるようになっています。そのうちのひとつがアメリカのカリフォルニアです。

「なんだ、栽培できるんじゃん」と思われるかも知れませんが、これはまったく簡単なことではありません。栽培されるようになったとはいえ収穫量はごくわずか。ネッビオーロのワインをリリースしている造り手も数えるほどしかありません。現状はカリフォルニアのセントラル・コーストの最南端、ロサンゼルスの北西に位置するサンタ・バーバラという産地がアメリカン・ネッビオーロの最有力地として注目されています。日本でもごくたま〜に「各国ネッビオーロ飲み比べ」といったイベントで、サンタ・バーバラのネッビオーロがラインナップに並ぶことがあるみたいですが、とにかくレア。栽培されているとはいえ、アメリカン・ネッビオーロを味わえる機会はまだまだ少ないのが現状です。

そんななか、ラッキーなことにアメリカン・ネッビオーロに出会うことができたわけですが、このワイン、サンタ・バーバラでもないこれまたレアなエリアで造られたレア中のレアなワインでして……

まるでブルゴーニュのピノ・ノワール! 「テラジェナ」ネッビオーロ 2016

造り手は、カリフォルニアの最北に位置し「カリフォルニアの極北」という意味を持つ「ファー・ノース」エリアにあるワイナリー「テラジェナ・ワイナリー&ヴィンヤード」です。具体的にはファー・ノースの中でも、より海側に位置するフンボルト郡にあります。どちらかというと北側のオレゴン州の方が近く、ワインの特徴としてはオレゴン・ワインに近いといえるかもしれません。

先ほど名前を出したサンタ・バーバラがセントラル・コーストの最南端(※)なら、こちらはカリフォルニアの最北端。南北に長いカリフォルニアの北と南という離れた土地で、レア品種ネッビオーロの栽培がそれぞれ成功しているなんて、不思議です。単純に緯度だけで考えると産地ごとに気温差が激しそうですが、海からの冷涼な風の影響などにより、離れた土地でも似た環境になることがある……それがワインの面白さの一つでもあります。
※カリフォルニアの最南端はサウス・コーストの「サン・ディエゴ」。

さて、ファー・ノースはとても自然豊かなエリアで、ほとんどが山と森に覆われています。その合間にブドウ畑が点在しており、小規模なワイナリーが主に地産地消を目的としてワイン造りを行っています。エリア的にもレア、品種的にもレア……そんなレア×レアの激レアワインが、今回の1本というわけ! 正直お値段は少しお高めです(税込5,700円ほど)。手にとらずにはいられない……このワインはそういうワインです。

ネッビオーロのワインの味わい

一般的な、北イタリアのネッビオーロの赤ワインの特徴をまとめると……

【香り】
できたての若いうちはバラの花、トリュフ、プラム、ダークチェリーなどの香り。熟成が進むと、タバコなどのスモーキーな香りが加わる。

【味わい】
できたての若いうちは酸味と渋みが豊富。熟成が進むと、渋みがやわらかく滑らかになり複雑な風味に。

【色(外観)】
色素が不安定で、酸化により色がぐっと薄くなる。そのため、薄く褐色がかったレンガ色のワインが多い。

「テラジェナ」ネッビオーロ 2016は、北イタリアの若く高貴なネッビオーロの特徴をぎゅっと詰めこんだような味わいです。色はロゼワインといっても差し支えないほど薄く澄んだ印象です。バラの花のようなフローラルな香りに、イチゴやチェリーといった甘酸っぱい果実の香り。酸味がとてもはっきり主張していてフレッシュな口当たり。渋みは軽めでライト。少し揮発酸のニュアンス(マニュキアのような匂い)を感じるけれど、それがいいアクセントになってワインの複雑さを際立たせています。

一口含んだ時に感じたのは、「ブルゴーニュ産のピノ・ノワールの赤ワインに……似てる!」ということ。実はファー・ノースのフンボルト郡は大陸性気候で、ブルゴーニュの気候とよく似ているのだそうです。そのためでしょうか、カリフォルニアワインを飲んでいるのに脳内にはブルゴーニュの景観が再生されました。不思議ですね、面白いですね。

ワイナリー公式サイト

販売サイト

合わせるならこれ!

わたしが「テラジェナ」ネッビオーロ 2016に合わせたのは、シンプルな味付けの牛ステーキ! 赤身肉の旨味とワインの複雑なテイストがマッチして、おいしいですよ! 少し脂身があっても、ワインの綺麗な酸の効果でさっぱりと食べられます。


吉田すだち ワインを愛するイラストレーター

都内在住の、ワインを愛するイラストレーター。日本ソムリエ協会認定 ワインエキスパート。ワインが主役のイラストをSNSで発信中!趣味は都内の美味しいワイン&料理の探索(オススメワイン、レストラン情報募集中)。2匹の愛する猫たちに囲まれながら、猫アレルギーが発覚!?鼻づまりと格闘しつつ、美味しいワインに舌鼓を打つ毎日をおくっている。
【HP】https://yoshidasudachi.com/
【instagram】https://www.instagram.com/yoshidasudachi

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