
2021年02月15日
皆様、こんにちは。インポーターの大野みさきです。
夏も目前ですね。暑いとビールも良いですが、スパークリングワインも美味しいですよね。世の中の男性は「泡物は全てシャンパン(ペン)」と思われている方も多く、「そこ違うんだよなー」と思っていても、男性のプライドを傷つけないよう細心の注意を払って、「泡」という表現で返すようにしています。今日は、話題沸騰のペットナットについてご紹介しましょう。
最近は国内外を問わず、ペットナット(Pet-Nat)と呼ばれるスパークリングワインの人気が広がっています。ペットナットはペティヤン ナチュレル(Petillant Naturel)の略称です。フランス、ロワールの自然派の造り手であるティエリー ピュズラや故クリスチャン ショサール(最初に「ペットナット」と称した人物)が発端で、1990年代に人為的介入を控えた自然なワイン造りを試行錯誤した結果、たまたま生まれたのがペットナットでした。
それではペットナットの3つの特徴を見ていきましょう。
ペットナットは、メトード リュラル(田舎方式)で造られます。アルコール一次発酵の途中で残糖がある状態で瓶詰めします。残りの発酵を瓶内で継続するので、王冠で密閉することによって、炭酸ガスが閉じ込められます。亜硫酸を添加しなければ、瓶詰後であっても、炭酸ガスが発生するのです。
秋に発酵を終えたワインは、酵母ヴァカンスを経て、春先に気温が上がると、再び活動をスタートし、発酵を起こすことがあります。意図して泡にするつもりはなかったけど、発泡してしまった、いわゆる失敗のケースでのペットナットもあります。期待する残糖にならなかったり、気圧にならなかったり、生産者のスキルが問われるワインだと思います。
GONCキャンバスロゼ2019 ロゼペットナット
ペットナットは白ワイン、オレンジワイン、ロゼワイン、赤ワインと様々なカラーバリエーションがあり、透明ボトルを用いて私たちを魅了します。比較的アルコール度数も低く、軽やかでフレッシュ、瑞々しいフルーツ感を残しています。発酵を瓶内で終わらせるので滓(おり)で濁っていたり、ナチュラルな味わいだったり、ほのかに甘いもの~辛口と個性はとても豊かです。
また、自然派ワインにありがちな瓶差が生じたり、還元率もやや高かったりしますが、かつての偶然の産物から、今やフランス全土、オーストリア、オーストラリア、南アメリカなどの世界中の自然派ワインの造り手から支持され、生産されるようになりました。
EUの基準では3気圧以上のものをスパークリングワイン(発泡性ワイン)と定めています。1気圧未満の微発泡は、スパークリングワインには見なされません。下記に各国のスパークリングワインの気圧をまとめてみました。
▶︎スパークリングワイン 発泡性ワイン
伊:スプマンテ(3気圧以上)〈例 プロセッコ、ランブルスコ〉
仏:ヴァン ムスー(5〜6気圧)、クレマン(3〜3.5気圧)〈例 クレマンダルザス〉
西:エスプモーソ
独:シャウムヴァイン(3.5気圧)、ゼクト(3.5気圧以上)
スロヴェニア:ペニーナ(?)
▶︎セミスパークリングワイン 微発泡性ワイン
伊:フリッツアンテ(2.5気圧以下)
仏:ペティヤン(2.5気圧以下)→ペットナットのペティアンですね!
西:ヴィノ デ アグーハ
独:パールヴァイン(2.5気圧以下)
▶︎スパークリングワイン 瓶内2次発酵
伊:フランチャコルタ(6気圧)、トレント
仏:シャンパーニュ(5気圧以上)
西:カヴァ(5〜6気圧)
独:ヴィンツァーゼクト(3.5気圧以上)
1気圧は標高0mの地表で、1平方センチメートル(親指の爪ぐらい)に1kgの物体を乗せた圧力になります。5気圧だと親指の爪に5kgの圧力です。瓶内二次発酵のワインはドイツ以外5~6気圧もあります。それは大型車のタイヤ、または水深50m潜った時に受ける圧に相当します。コルクが針金で固定されているのも納得ですね。
ガス圧に耐えられるよう、ボトルは厚めに設計され、スティルワインよりもボトルの重量が重いのもこのためです。ボトル底の凹み部分も深くなっているのが特徴です。ダム壁の原理と同様に、反り返りによって圧力を分散するのが目的です。
ペットナットはペティヤンと言われるぐらいですから、微発泡ワインのカテゴリーで1~3気圧程度のものが多く見られます。ビールのように王冠栓だからと言って侮ってはいけません。なかには5気圧以上の高圧のペットナットもあるので、開栓と同時にしばし噴くことがあります。泡物に振動は厳禁ですが、特に注意しないとならないのがペットナットです。最も有効な対処法は、キンキンに冷やして、斜め45度の抜栓が鉄則です。この圧力こそ、ペットナットのシュワシュワの源なのです。
なんと言ってもぺトナット最大の魅力が、ボトル底に溜まっている滓由来の「酵母感」です。ワイン醸造で活発なサッカロミ(マイ)セスは、パン酵母やビール酵母と同じ群です。イースト香は酵母が化学的に分解されることで発生します。
滓=酵母の死=旨味
ペットナットは滓引きをしていないので、現在進行形でシュルリー(滓と接触している)状態です。熟成させることによって更に旨味が豊かなペットナットとなります。熟成中の酵母は、自己消化(分解)を起こします。それは熟成肉と同じ原理で、自己が保有する酵素により自己を分解します。やがて細胞膜が破壊され死を迎えた酵母はアミノ酸に変わります。そのためボトル底に溜まっている滓は旨味の塊です。底に近づけば近づくほど旨味が強くて美味しいです。残り物に福があるとはまさにこのことですね。
ナチュラルワイン好きには堪らないペットナットですが、生産者サイドでもキャッシュフローに長けている理由からも好評です。
通常のスパークリングワインではスティスワインを作成して、糖分を添加して二次発酵を行います。その後、滓と共に熟成(シャンパーニュの場合15~36ヶ月以上)させて、滓引き、目減り分のリキュールを添加、打栓と少なくとも収穫からリリースまで1年~数年かかるのです。その分ペットナットは、一次発酵の途中から瓶詰めして、数ヶ月で完成します。二次発酵、熟成、滓引き、ドサージュも必要ありません。ペットナットは消費者だけでなく、生産者をも喜ばせるワインです。
最後にペットナットのとっておきの楽しみ方をお教えしましょう。
1. よく冷やしてキメ細やかな泡の感触とのど越しを楽しむ。
小振りの白ワイングラスかフルートグラス/10℃
2. やや温度が上がると泡が穏やかになり、そこに広がる香りを楽しむ。
中振りの白ワイングラス/12℃
3. 高め温度でスティルワインとして、最後は底に沈んだ滓ごと旨味を楽しむ。
大振りのグラス/15℃
翌日~1週間後に召し上って頂くのもおすすめ!開けた直後よりもシャンパンストッパーをして数日置いた方が美味しいです。
左から)KABAJティベティア2019 オレンジペットナット、GONCキャンバスロゼ2019 ロゼペットナット 、KABAJアマンダ2019 ロゼペットナット
もうすぐ梅雨もあけて夏本番を迎えます。王冠栓のカジュアルスタイルは夕涼みにぴったりです。旨味たっぷりの無添加ナチュラルワイン。是非お試し下さい。
それでは皆様、ごきげんよう!
365wine 大野みさき
スロヴェニアワイン輸入元365wine㈱ 代表取締役。
元ANA国際線CAが、7年の在職中にワインに魅せられ渡仏。2014年に帰国し、ひと月でワイン輸入会社を設立。買付け、営業、展示会、ウェブショップ運営、倉庫作業をヒィヒィ言いながらも華麗にこなす。巷ではスロヴェニアワインの第一人者と囁かれている。まんざらでもない。ワイン講師、サクラアワードの審査員も喜んで引き受ける。毎日ワインを飲むのか尋ねられたら、「はい、365日ワインです♡」と返すよう心掛けている。
【ワインショップ】http://www.365wine.co.jp/
【instagram】https://www.instagram.com/365wine/