
2021年02月23日
ワインの味わいや色の関係上、なくてはならない存在である「タンニン」。渋味の元であるだけでなく、ワインのさまざまな味わいや風味を造るのに大きな影響を与えています。この記事では、タンニンとは何か、またワインにどのような作用をもたらすかなど効果や役割について解説します。
タンニンとは、植物の葉や実、種子、根などに含まれるポリフェノール化合物の一種。元は革製品作りの際、動物の皮をなめす(=tanning)ときに使われていたことからタンニンと呼ばれています。
タンニンには、タンパク質やアルカロイド、金属イオンなどさまざまな成分と反応して、強く結合する特徴があります。タンニンを口に含むと強い苦味や渋味が感じられますが、これはタンニンが舌や口のなかの粘膜のタンパク質と結合して、口のなかが引き締められる「収れん作用」によって起こるもの。
ぶどうにこのような作用をもたらすタンニンが含まれる理由は、動物や昆虫などの外敵から果実を守る防御の役割を担っているからなのです。
タンニンが属するポリフェノール化合物とはどのようなものなのでしょうか。
ポリフェノールは植物のさまざまな部位に含まれており、紫外線が種子に届くのを防ぐために含まれる色素成分です。ワインに多く含まれる成分として知られています。ポリフェノールと呼ばれる成分は一種類だけではなく、ワインに含まれるポリフェノールは500種類以上もあると言われます。
ワインにポリフェノールが豊富なのは、その原料のぶどうに含まれるポリフェノールが多いから。ぶどうには、果皮にアントシアニン、レスベラトロール、タンニン、種子には、プロアントシアニジン、カテキン、タンニン、ケルセチン、果肉にはアントシアニン、ぶどうの房の部分である果梗にはタンニン、カテキンなどのポリフェノールが含まれています。
赤ワインはそのぶどうの果皮から種子まですべて絞ってから作られるため、ポリフェノール(=タンニン)が多く含まれるのです。
ワインとは切っても切れない間柄のタンニン。タンニンには、ワインの色調や風味だけでなく、熟成に関しても影響を与える重要な役割があります。タンニンとワインの深い関係性について見ていきましょう。
赤ワインの特徴である赤い色は、黒ぶどうの果皮に多く含まれる、ポリフェノールの一種「アントシアニン」や果皮や種子に含まれる「タンニン」から抽出されます。赤ワインは、果皮や果実、種子などすべて一緒に醸造するため、これらの成分がワインのなかに豊富に含まれ、色鮮やかな赤い色になるわけです。
また、アントシアニンは、空気中の酸素に触れてワインの中のさまざまな成分と結合する働きがあり、タンニンと結合することで含有量が増加し、ワインの色合いを安定させるという効果があります。タンニンの働きは、赤ワインの色にも大きく関係しているのです。
タンニンの渋味は、熟成させることでおだやかになり、丸みのある味わいと複雑な風味をもたらします。タンニンは、時間とともにアントシアニンやタンパク質などさまざまな成分と結合する特徴を持っているため、熟成されるほど渋味成分は澱として沈殿して渋さは弱まり、ワインの味わいはまろやかに変化するわけです。
ワインのなかのタンニンが豊富であれば、深みが増し重厚感が感じられるので、「ずっしり」や「重たい」と表現される「フルボディワイン」が多くなるという特徴もあります。
また、タンニンにはワインに味の深みを与えるとともに、熟成において酸化を防ぐという効果もあります。酸化による劣化を防ぎ、安全でおいしいワインを造るために非常に重要な役割を持つ成分だといえるでしょう。
タンニンには、これまで紹介したぶどう由来のものだけでなく、ワイン樽由来のものがあります。熟成の際に使用する樽の材料の木にもタンニンが豊富に含まれているので、樽熟成中にもタンニンが溶け出して醸造を助け、ワインの風味や味わいをよりよいものにしていくのです。
ワインを口に含んだときに感じる渋味がタンニンですが、この渋味とは、香りや風味などの味覚とは違い、口内で感じる触覚と捉えられます。そのため、ワインでタンニンの渋味を表すとき、「シルキーな」「ビロードのような」「ザラついた」のような表現方法を用います。
タンニンの力強さや強烈さを表現するなら、「刺すような」が適切。そのほかにも「力強い」「粗い」「突出した」「ザラついた」などの表現方法があります。
一方、一番なめらかな感覚の表現方法は「シルキーな」が用いられます。ほかには「ビロードのような」「緻密」「キメ細い」「サラサラとした」などがあります。ワインの渋味は、肌触りのような感触で表現されるのが分かるでしょう。
タンニンとは、ワインの原料であるぶどうだけではなく、さまざまな植物に含まれています。では最後に、ワイン以外でわたしたちの身近にあるタンニンについて見ていきましょう。
日本でもっとも馴染みのあるタンニンは、お茶のタンニンではないでしょうか。お茶のタンニンは「カテキン」と呼ばれ、「茶カテキン」というカテゴリーに区分されるお茶の苦味成分です。お茶には、緑茶や紅茶、烏龍茶などさまざまな種類がありますが、茶葉の栽培方法や摘み取る時期、製造工程、またお茶の抽出方法によってタンニンの含有率が変わります。
緑茶のなかでも、日常的に飲まれる煎茶は、茶葉の栽培の時点から葉に日光をたくさん浴びせて盛んに光合成をさせるため、タンニンを多く含みます。一方でほうじ茶は、焙煎した茶葉から抽出するため、タンニンの含有率は少なくなります。
また、烏龍茶は、茶葉を半発酵させて作られますが、半発酵させるときに茶葉に含まれるタンニンが酸化するため、タンニンの含有率が少なくなります。
紅茶に関しては、茶葉の産地や種類によって味わいや特徴が違い、タンニンの含有率も変わってきます。ただ、一般的に紅茶の生葉にはたくさんタンニンが含まれているものが多く、製造工程で完全発酵させても多くの紅茶には煎茶と同じくらいのタンニンが残ります。
コーヒーと言えばカフェインが浮かびますが、ポリフェノールも豊富に含まれていて、その量は赤ワインに匹敵するほど。コーヒーに含まれるの代表的なポリフェノールは、「クロロゲン酸」で、コーヒーの褐色や苦味、香りの元とされています。
渋柿には、「カキタンニン」というタンニンが含まれていて、種子が未熟な間に豊富なタンニンでその身を守っています。渋柿のタンニンは、防水効果や防腐効果、耐久力の強化などの特性があり、渋柿の果汁を搾り発酵させて、補強剤や防腐剤、防水剤、染色剤、塗料として利用されます。
渋柿のタンニンは、古くから、漆器や布、木、竹、紙、型紙、うちわ、傘などの日用品に使われてきました。それだけでなく、漁網、釣り糸、ロープ、船や建築材などの下地に使用され、日本酒製造においては、酒の中のタンパク質をカキタンニンが凝固して、沈殿させる清澄剤や澱下剤としても利用されていますよ。
革製のかばんや靴は、牛や豚の皮からできていますが、動物の皮はそのままの状態では使えないため、タンニンなめしをおこなってから革製品が作られます。
タンニンなめしの歴史は、古代エジプトまで遡り、昔からおこなわれていた伝統的な革作りの製法。ミモザやチェスナットなどの植物の樹皮から抽出したタンニンに約2ヶ月間じっくり漬け込んで作られます。タンニンなめしの革製品は、自然界の素材のみで作られているので、環境にも人にもやさしい土に返るエコロジー製品として親しまれています。
ワインの味わいや風味に効果をもたらすタンニン。奥深さを出したり、熟成を助けたりとさまざまな役割を果たします。タンパク質と結合して、口のなかに残る脂分を取り去る働きがあるため、タンニンの多い赤ワインは肉料理やこってりした料理とよく合うのも頷けますね。タンニンとワインの関係性を知り、よりワインを興味深く味わってみてください。