2022年02月23日

ビール党に捧ぐ! 東北シュワシュワ辛口ワイン

仕事あがりの1杯といえば「とりあえずビール!」でしょうか。キンキンに冷えたジョッキに注がれるキンキンに冷えたビール。あの喉ごし、苦味、麦の香り……ビールは多くの働く大人の喉を癒し続ける、醸造酒界の敏腕マッサージ師のような存在です。最近ではクラフトビールがちょっとしたブームになっています。フルーティでアロマティックなもの、甘味や酸味といったさまざまなテイストを楽しめるものなど、喉ごしだけにとどまらない個性的なスタイルのビールが続々登場しています。ビールもまた、奥が深い。

……なんていいつつ、やっぱりワインを推させてください。お酒を愛する多くの同志の皆さんと同じく「仕事あがりの1杯は “とりあえずビール” 派」だった私ですが、最近はビールの代わりにとあるワインにハマっています。それは、「東北生まれのデラウェア・スパークリング」です。

デラウェアは夏になるとたいていのスーパーマーケットでお目にかかることができる、ポピュラーな種なしブドウです。大阪ワインを紹介した記事(「GI大阪」認定ワイン味わいレポート)でも触れましたが、生食用のイメージが強いので「甘口ワインなんでしょ……?」と思われる方が多いかも知れません。でも実は辛口日本ワインのメジャー品種としても人気が高いブドウなのです。特にデラウェア種で造られるスパークリングワインは、ビール党の舌をも唸らせるスッキリ、爽快な味わい。それゆえ、「とりあえずビール!」ならぬ「とりあえずデラウェア・スパークリング!」を、ぜひとも私は推したいのです……!

日本におけるデラウェア種のメッカといえば、東北地方。東北地方のデラウェア種栽培事情や、デラウェア種からスッキリ辛口ワインが造られる秘密にふれながら、おすすめの「デラウェア・スパークリング」をご紹介します。

日本最大の “デラウェア県” は山形

デラウェアを語るうえで外せないのは、山形県。山形県のワイン造りの歴史は古く、明治中期(1870年前後)にまでさかのぼります。早くからジンファンデル種といった西洋品種の栽培試験が行われるなど、イノベーティブなワイン造りが進められてきました。 “東北最古のワイナリー” として有名な酒井ワイナリーも山形県にあります。

順調にワイン造りの技術と実績を積み上げていた山形県ですが、1920年ごろに流行した害虫「フィロキセラ」によりブドウ畑が壊滅的な被害を受けてしまいます。フィロキセラといえば、過去にフランスをはじめとするヨーロッパ諸国のブドウ樹を軒並み枯死させてしまった、ブドウ栽培の天敵ともいえる存在です。ああ、憎きフィロキセラ……山形のワイン造りはここで歩みを緩めることを余儀なくされました。しかしこれがキッカケとなり、当時「保存性に優れてワイン造りに活用できる」と評判だったデラウェア種が、山梨県から山形県へと持ち込まれることになったのです。

紆余曲折を経て現在、山形県は日本一のデラウェア栽培面積を誇っています。なんという運命のいたずらでしょう。こうして山形県に根付いたデラウェアは、その後東北の他県にも広がっていきました。今では山形を中心に各地で質の高い辛口のデラウェア・ワインが造られています。

デラウェア種からスッキリ辛口ワインが造られる理由

それにしても、スーパーマーケットで見かける甘い “種なし” デラウェアから辛口ワインが造られるって、ちょっと想像しにくくはないですか? それもそのはず、ワイン造りに使われるデラウェアはほとんどの場合 “種あり” です。

種なし” のデラウェアを作る場合、栽培過程で「ジベレリン処理」という特別な処理を行います。ジベレリンとは成長ホルモンの一種です。実がつく前のブドウをひとふさずつ丁寧にジベレリン溶液に漬けることで、受粉せずに甘い “種なし” の果実が実ります。つまりこのプロセスを実行しなければ、 “種あり” のデラウェアになるわけです。

ワイン造りに “種あり” の果実を使うと、種に含まれる成分がワインに染み出して味わいに複雑みがでます。そして “種なし” よりも “種あり” のデラウェアの方が酸味が強くなります。酸味の正体のひとつ、リンゴ酸が豊富に含まれるからです。 “種あり” デラウェアを使うことでキリッと爽やかな酸味の味わい深いワインが生み出されるわけです。

リンゴ酸は完熟に近づくと減少し、代わりに糖度が高まります。それゆえ、スッキリ辛口のワインを造るには色づく前の緑色の状態の時に収穫する必要があるそうです。ちなみに、私たちがよく目にする紫色のデラウェアを「完デラ」、ワイン造りに使う緑色のデラウェアを「青デラ」と呼ぶらしいです。これもいつか通ぶって使ってみたい用語のひとつ……。

東北生まれのおすすめデラウェア・スパークリング

デラウェア種のワインの中でも、ビール党の皆さんにご賞味いただきたいのはスパークリングワインです。キリッと目が覚めるような爽快な酸味にシュワシュワ小気味良い泡……鼻と舌と喉を総動員して味わって欲しいおすすめ銘柄を2つご紹介します。

1本目:TEF no Night Fever(山形県) 

デラウェアのメッカ、山形県南陽市にあるワイナリー、Yellow Magic Wineryのデラウェア・スパークリング! 2019年9月に設立されたばかりの、若いワイナリーです。ワイナリー名といいラベルデザインといいワイン名といい、とにかく陽気で楽しくなっちゃう1本。ワイン名の「TEF」は醸造に関わるタカセ(T)さん、エダマツ(E)さん、フルウチ(F)さんトリオの通称なのだとか。茶目っ気たっぷりです。

「青デラ」よりも遅く「完デラ」よりも早い時期、最も酸味と糖度のバランスがいいタイミングを狙って収穫して醸造しているのだそう。彼らはそれを「ピンクデラ」と呼んでいます。色づき具合がまばらでピンク色に見えるから……でしょうか。それにデラウェアから作ったオレンジワインをブレンドして、瓶内二次発酵させてスパークリングワインに仕上げています。

写真にも写っているとおり、ビールのような色合いにビールのような泡立ち! フルーティながらもしっかりとした酸味や酵母の香ばしさがきいていて、フルーティな香りのベルギービール「ホワイトエール」のような雰囲気です。そこにワインならではの蜂蜜のような香りやバターのようなクリーミーさが加わり、ビール好きもワイン好きも納得の味わいなのではないでしょうか。抜栓して2〜3日冷蔵庫に寝かせておくと、泡が落ち着き美味しい白ワインに変身します。旨味が濃くなり、これがまた美味しいんだ……! 1本で2度美味しい、ハイブリッドなワインです。ぜひご賞味ください。

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2本目:デラウェア・スパークリング(宮城県) 

南三陸ワイナリーは、2011年に発生した東日本大震災により甚大な被害を受けた町のひとつ、宮城県南三陸町の復興プロジェクトとして立ち上げられたワイナリーです。震災後、南三陸では人口が減って住民の高齢化が加速。地元産業の担い手不足が深刻になり、産業復興の足かせとなってきました。また、津波により大きな被害を受けた町の中心地には、震災後も住居や宿泊施設が再建されることはなく、より過疎化が進んでしまったといいます。こうした状況を変え、町にかつての活気を取り戻すために発足されたのが「南三陸ワインプロジェクト」。このワインには南三陸の皆さんの情熱と未来を見つめる熱い想いがこめられています。

そんな南三陸ワイナリーが手がけるデラウェアスパークリングは、南三陸の海産物とのマリアージュを念頭に造られています。シャープな酸ときめ細やかな泡を兼ね備えた超スッキリタイプ。炭酸は味わいのアクセントになる程度で、弾ける感じが苦手な人でも心地よく感じます。酸がしっかりしていて、レモンをキュッと絞って食べたい魚介との相性が抜群です。唐揚げにもベストマッチ。ビール党はもちろん、ハイボール党の皆さんにも試して欲しい1本です。

ちなみに南三陸ワイナリーはしばらく、別のワイナリーより醸造施設を間借りして委託醸造を行っていました。しかし2020年9月、ついに自社のワイナリー施設をオープン。日夜ブランドに磨きをかけているそうです。次の目標は純南三陸産のブドウでワインを造ることなのだとか……個人的にもとても注目しているワイナリーさんです。ぜひ皆さんもお手にとってみてくださいね!

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吉田すだち ワインを愛するイラストレーター

都内在住の、ワインを愛するイラストレーター。日本ソムリエ協会認定 ワインエキスパート。ワインが主役のイラストをSNSで発信中!趣味は都内の美味しいワイン&料理の探索(オススメワイン、レストラン情報募集中)。2匹の愛する猫たちに囲まれながら、猫アレルギーが発覚!?鼻づまりと格闘しつつ、美味しいワインに舌鼓を打つ毎日をおくっている。
【HP】https://yoshidasudachi.com/
【instagram】https://www.instagram.com/yoshidasudachi

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