2022年11月01日

世界に認められた日本の「マスカット・ベーリーA」について解説!

日本固有の赤ワイン用ブドウ品種である、マスカット・ベーリーA。甘くてライトな味わいのイメージがありますが、栽培・醸造技術の発達により、近年は多彩なスタイルのワインが登場している品種です。この記事では、マスカット・ベーリーAの由来や味わいなどの特徴について紹介します。

マスカット・ベーリーAとは

木樽の上に置かれたふたつのワイングラスに赤ワインを注ぐ
iStock.com/Rostislav_Sedlacek

日本ワインが浸透しつつある昨今、マスカット・ベーリーAの名前を耳にする機会が増えているのではないでしょうか。日本でもっとも栽培されているワイン用ブドウ品種は甲州ですが、その次に多く栽培されているのがマスカット・ベーリーAです。

日本原産のブドウであり、国際的にも醸造用ブドウ品種として認められています。華やかな香りと豊かな果実感は、海外のブドウに引けを取りません。近年は生産者の努力により、フレッシュなタイプから樽熟成したタイプまで、マスカット・ベーリーAを原料としたさまざまなスタイルのワインが楽しめるようになっています。

マスカット・ベーリーAの特徴

棚仕立ての樹に実るマスカット・ベーリーA
iStock.com/TokioMarineLife

チャーミングな香りと、果実味あふれる味わいが魅力のマスカット・ベーリーA。ここからはより具体的に、マスカット・ベーリーAの特徴に迫ります。

ブドウとしての特徴

マスカット・ベーリーAの粒は濃紫色でサイズは大きく、房もぼってりと大きめです。果皮の色が濃いわりに色素の量は多くないため、明るい色合いのワインに仕上がります。糖度は高めで甘く、しっかり酸味もあり、ワイン醸造用だけでなく生食用としても生産されているブドウです。

産地

マスカット・ベーリーAの原産地は新潟県ですが、現在は山梨県が生産の中心地です。マスカット・ベーリーAは日本の気候や土壌に合わせて交雑された品種であり、病気・湿気・低温に強いため、東北から九州まで広い地域で栽培されています。山梨県以外の主な産地は山形県・長野県・岡山県などで、それぞれの土地ではマスカット・ベーリーAを原料としたワインも多く作られています。

味わい

マスカット・ベーリーAの一番の特徴は、いちごキャンディや綿菓子を思わせる甘く華やかな香りです。これはマスカット・ベーリーAの親にあたる、アメリカ系ブドウ品種に特徴的なフォクシー・フレーバーと呼ばれる香りであり、グレープジュースのような香りと表現されることもあります。特にマスカット・ベーリーAには、いちご・パイナップル・トマトなどに含まれるフラネオールという香気成分が多く含まれています。これらの香りはワインの果実感をより高め、マスカット・ベーリーAから作られるワインをより親しみやすいものにしているのです。

マスカット・ベーリーAのワインを口に含むと、口当たりはまろやかでやさしく、フレッシュな果実味やしっかりとした酸味を感じます。タンニンは控えめで、フルーティーで軽やかな印象のワインに仕上がることがほとんどです。しかし近年は栽培や醸造の技術が向上して、既存のスタイルにとらわれないマスカット・ベーリーAのワインが登場しています。

生食用を兼ねていたマスカット・ベーリーAは、ほぼ棚仕立てで栽培されていました。しかしマスカット・ベーリーAの栽培や収穫について抜本的な見直しがおこなわれ、垣根仕立てでの栽培や遅摘みの導入が進んでいます。醸造に関しても野生酵母の使用や全房発酵、樽熟成などいろいろな方法が試みられています。かつては早飲みワインというイメージが強くありましたが、昨今は長期熟成タイプのマスカット・ベーリーAもめずらしくありません。栽培家や醸造家の研究と努力により、マスカット・ベーリーAの多様な魅力に気づけるワインが誕生しています。

呼び名の由来と歴史

白い皿の上に置かれたブドウの房と赤ワインが入ったふたつのワイングラス
iStock.com/Ekaterina Fedulyeva

マスカット・ベーリーAの生みの親は、新潟県にある岩の原葡萄園の創設者、川上善兵衛氏です。「日本のワインぶどうの父」とも呼ばれる善兵衛氏ですが、岩の原葡萄園の開設当時は欧米品種の栽培試験に取り組んでいました。しかし新潟県の気候・土壌では質のよいブドウが思うように育成できず、善兵衛氏は品種交配に取り組むことを決意します。その研究のなかで誕生したのが、マスカット・ベーリーAでした。

マスカット・ベーリーAの親はアメリカ系ブドウ品種のベーリーと、ヨーロッパ系ブドウ品種のマスカット・ハンブルグです。この2種を交雑したのが1927年であり、初めて結実したのが1931年。1940年の正式公表の後、日本各地で栽培されるようになりました。

マスカット・ベーリーAの品種名は、親品種の名前にちなんで付けられています。ベリーAと呼ばれることもありますが、英語のつづりはMuscat Bailey Aであるため、ベーリーもしくはベイリーが正しい発音です。マスカット・ベーリーAが登場した後に、善兵衛氏による品種交配によって、同じベーリーとマスカット・ハンブルグを親としたマスカット・ベーリーBという品種が誕生しています。品種を区別するためにベーリーAとベーリーBという別の名前を付けたようですが、現在マスカット・ベーリーBは存在していません。

マスカット・ベーリーAが注目を集めるきっかけとなったのが、O.I.V.(Office International de la vigne et du vin:国際ブドウ・ワイン機構)への登録でした。O.I.V.はフランスを本拠地とする、ブドウに関する研究機関です。マスカット・ベーリーAと肩を並べる日本の固有品種、甲州が2010年にO.I.V.へ登録されたことから、山梨県を中心にマスカット・ベーリーAも登録を目指そうとする動きが高まります。2013年にはマスカット・ベーリーAも、O.I.V.に正式登録されました。

O.I.V.に登録されると、ヨーロッパでの販売時にブドウ品種の表示が可能になります。ワインを購入するときはラベルの表示を頼りにすることが多いため、品種が表示できることは大きなメリットです。O.I.V.に登録されたことで、マスカット・ベーリーAは世界へと躍進する可能性を持つ、日本を代表するブドウになったといえるでしょう。

マスカット・ベーリーAを使ったおすすめワイン3選

マスカット・ベーリーAの魅力を再発見できる、おすすめのワインを紹介します。東北から九州まで、マスカット・ベーリーAの個性が光るワインをそろえました。

1.朝日町ワイン 山形マスカット・ベーリーA 赤/辛口

朝日町ワイン 山形マスカットベーリーA
¥1,338(税込み)〜/赤/日本

朝日町ワイナリーは、山形県の中央部に位置する西村山郡朝日町にあるワイナリーです。山形県産マスカット・ベーリーAを100%使用し、ブドウの持ち味を余すことなく詰め込むため、濾過をせずに仕上げています。ベリー系の華やかな香り、穏やかな渋みとやわらかな酸といった、マスカット・ベーリーAの魅力をストレートに味わえる1本です。値段がリーズナブルで、家庭料理に気軽に合わせやすい点もポイントです。

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2.安心院ワイン 樽熟成マスカット・ベーリーA

安心院ワイン 樽熟成マスカット・ベーリーA
¥2,366(税込)〜/赤/日本

焼酎で有名な三和酒類が運営する、安心院(あじむ)葡萄酒工房というワイナリーで作られている日本ワインです。同ワイナリーでは各種酒類の製造技術を活かし、本格的で高品質なワイン作りに取り組んでいます。このワインは大分県宇佐市安心院町で栽培・収穫したマスカット・ベーリーAを発酵後、オーク樽で約1年間貯蔵。マスカット・ベーリーA特有のいちごジャムのような香りのほか、ミントやジャスミンのような花の香りも感じられます。やわらかなタンニンとほどよい酸味、豊かな味わいを楽しめる1本です。

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3.シャトー・メルシャン 穂坂マスカット・ベーリーA

シャトー・メルシャン 穂坂マスカット・ベーリーA
¥2,965(税込)〜/赤/日本

山梨県韮崎市穂坂地区で収穫された、熟度が高いマスカット・ベーリーAを使用した赤ワインです。マスカット・ベーリーAらしい果実感のある華やかな香りのほか、カラメルや枯葉といった複雑な香りも感じられます。ステンレスタンク発酵の後オーク樽にて約25カ月間熟成させており、エレガントで長い余韻も印象的。心地よい酸と複雑さを持ち合わせた、飲みごたえのある赤ワインに仕上がっています。

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相性のいい料理

料理が盛られた白い皿の手前に置かれる赤ワインが入ったワイングラス
iStock.com/MarianVejcik

ワインの楽しみ方のひとつが、料理とのペアリングです。渋みが少なくフルーティーなマスカット・ベーリーAは、ぜひ和食と合わせてみてください。肉料理では、甘辛い味わいのタレの焼鳥やすき焼きがおすすめです。しょうゆ・砂糖・みりんはマスカット・ベーリーAの果実感と相性がよいので、肉じゃがや筑前煮、きんぴらごぼうのような家庭料理ともよく合います。魚であれば脂がのった白身魚、例えばブリの照り焼きやサワラの西京焼きなどがよいでしょう。

マスカット・ベーリーAの、酸味があってタンニンが少なく軽やかな味わいは、和食だけでなく洋食・中華料理・エスニック料理といった幅広い料理に合わせられます。気負わずにいろいろ試して、お気に入りのペアリングを見つけてください。

日本を代表するマスカット・ベーリーA

屋外のテーブルの上に置かれた赤ワインが入ったグラス
iStock.com/haveseen

チャーミングな香りと豊かな果実味が魅力のマスカット・ベーリーAは、世界に認められた日本の固有品種です。近年は多様なスタイルのワインが作られていますが、どれも親しみやすい味わいで料理との相性もよく、生活に彩りを与えてくれるワインになるでしょう。和食や家庭料理に合わせるワインを選ぶときに、ぜひ候補のひとつに加えてください。

※商品価格は、2022年10月18日時点での情報です。

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